2013.11.08 書評

極上のスリルを愉しもう

文: 村上 貴史 (文芸評論家)

『シャドウ・ストーカー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著 池田真紀子 訳)

 カントリー・ミュージック界のニューヒロイン、ケイリー・タウンは、ファンだという男に、執拗につきまとわれていた。その男は、ケイリーにメールを何10通も送ってくる。彼女を傷付けるような言葉は決して使わない。常にケイリーを肯定する言葉だけを選ぶ。彼はケイリーの目の前に姿を現すことすらほとんどない。だが、その文面から立ち上ってくるのは、彼が常にケイリーを見ているということ……。

 ジェフリー・ディーヴァーの最新刊『シャドウ・ストーカー』は、ストーカーを題材とした1冊である。ディーヴァーといえば、どんでん返しの連続で読者に一瞬たりとも油断をさせない作家として名高い。今回もストーカー事件という基本的な枠組みを維持しつつ、読者がまるで予想しない角度から衝撃をぶつけてくるのである。プロットに仕込んだ大技もあれば、叙述を活かした小技もある。とにかくあらゆる機会を逃さずに読者を振り回す。本書はディーヴァーのプロット作りの巧みさや語りの巧みさをしっかりと体感できる1冊なのだ。

 その物語を牽引するヒロインが、ケイリーの友人、キャサリン・ダンスだ。カリフォルニア捜査局の捜査官である彼女が、尋問とキネシクス――ボディランゲージの分析――の専門家として読者の前に初登場したのは、〈リンカーン・ライム〉シリーズの第7弾『ウォッチメイカー』でのことであった。この作品で、科学捜査のプロであるリンカーン・ライムに協力し、事件解決に貢献したダンスは、2007年、『スリーピング・ドール』の主役として再登場した。一家惨殺犯が脱獄した事件を扱ったこの作品において、彼女は尋問術を駆使して犯人を追い詰めていった。このダンスの初主演作は、ダンスという人間を深く掘り下げていた。彼女は尋問するだけでなく、夫を失ったシングルマザーとしての顔を見せ、新たな恋に躊躇する女性としての顔も見せる。正直にいって、リンカーン・ライムより、ずっと感情移入しやすい主人公だったのだ。こうした作品が読者に支持されないわけがない。ダンスは『ロードサイド・クロス』で2度目の主役を務め、さらに本書で3度目の主演を果たすまでに、読者の人気を集めたのである。

 さて、本書は捜査官ダンスの恋心をたっぷりと綴るだけでなく、彼女のさらに別の一面も描いている。“ソング・キャッチャー”としてのダンスだ。彼女は良質な音楽を録音し、自分の営むウェブサイトにアップロードし、販売している。今回彼女は、あるグループの楽曲を録音すべく、休暇を利用して彼等が住むカリフォルニア州フレズノを訪れていた。そこでストーカー事件に関与することになったのである。

【次ページ】

シャドウ・ストーカー
ジェフリー・ディーヴァー・著 池田真紀子・訳

定価:2400円+税 発売日:2013年10月12日

詳しい内容はこちら