2009.03.20 インタビュー・対談

生き続けることの大切さ

聞き手: 「本の話」編集部

『少年譜』 (伊集院静 著)

生き続けることの大切さ

──表題作になっています「少年譜」は、二〇〇四年十月号の「オール讀物」で発表された短篇です。この号で、伊集院さんは、重松清さんと「少年小説」について対談をされて、以降、継続的に「少年小説」をご執筆されています。伊集院さんが、この時期から集中的に「少年小説」に取り組まれたのは、なぜですか。

伊集院  私が最初に書いた小説は「皐月」という少年を主人公にした短篇でした。小説現代新人賞に応募して落選したのですが、幸運にも雑誌に掲載されて、一九八一年にこの小説で作家としてデビューすることができました。この「皐月」を、中学一年生の国語の教科書に掲載したいという申し入れを〇三年頃に頂いたんです。この話を頂いたときに、いままで少年小説を書いてきたけど、短篇だけで一冊にまとめたことがないのでやってみようか、と思ったんです。

──「少年譜」という言葉は、あまり聞きなれないものですが、このタイトルへの思いをお聞かせ下さい。

伊集院  最初は、「愁譜」というタイトルを考えていました。「愁い」という感情、環境のあり方の積み重ね、年表のようなものが書けないかと思ったんです。

  みんな、幸せ、幸せっていうけれども、たまたま親に置いて行かれた子供とか何かの事情で切ない幼年時代を過ごさねばならない子供の方が、裕福な生活ができている子供たちよりも豊かな人生を送ることができるんじゃないかと思っているんです。そういう人たちに光を当てた小説もあっていいのではないかと思います。切ない境遇での愁いで“愁譜”。ただ、「愁譜」だと分かり難いので、「少年譜」というタイトルにしました。「愁譜」というのは、小説を貫く考え方なのでしょう。

──本作は七つの短篇で構成されています。まず、表題作の「少年譜 笛の音」についてお聞きします。伊集院さんの故郷、山口県防府市三田尻が舞台の小説です。昭和三十三年四月一日、売春防止法が施行される日の未明に娼家で火事があり、その騒ぎの中一人の赤ん坊が橋の袂(たもと)に置き捨てられていたところから物語は始まります。昭和三十三年というと、伊集院さんが八歳、まさに少年時代の出来事です。

伊集院  私が生まれ育ったところを舞台にしていますが、実際にあの夜に火事があったわけじゃないんです。ただ、売春防止法が施行された日の夜は、日本中の廓町(くるわまち)が刹那的(せつなてき)になったと思います。明日から解放されるといわれても、本当は仕事を続けたかった娼婦はたくさんいた。その時代の空気というものが、私の体の中に残っているんですね。短篇を書く時に大切にしたいことのひとつに、風土があります。何も知らない町を舞台には、私は書けない。作家の体の中に培われている風土、それが小説の個性に繋がると思います。

少年譜
伊集院 静・著

定価:1575円(税込)

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