2011.12.14 インタビュー・対談

「西洋化」に代わる物語を

聞き手: 「本の話」編集部

『中国化する日本』 (與那覇潤 著)

「西洋化」に代わる物語を

発売後1週間で増刷が決まるなど、『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(11月刊)が好調である。著者の與那覇潤さんは弱冠32歳の大学准教授。本書は著者のふだんの講義内容をまるでライブ録音そのままに、会話体で書き下ろしたものだというが、タイトルにある「一千年史」のとおり、院政の開幕/源平合戦から政権交代/ポスト3.11まで、1000年超の日本史すべてを斬新な視点で論じ切る内容が話題になっている。その狙いや執筆の舞台裏を、與那覇さんに語っていただいた。

(注・文中の「*」印のあるURLは外部リンクです)

――與那覇さんの本来の専門は明治時代の沖縄問題(*『翻訳の政治学』 岩波書店 2009)で、前著で扱っているのは昭和の戦争(*『帝国の残影』 NTT出版 2011)と、これまで近現代史の分野で研究をしてこられました。それが今回はそもそも、どうして一人で1000年分も書こうと思ったんですか?

與那覇 普通じゃないですよね(笑)。ただ、従来からよきにつけ悪しきにつけ、日本の近代化って「特殊」だ、といつも言われてきた。「よき」の方は「アジアで唯一の列強入り」や「奇跡の戦後復興」であり、「悪しき」の方は「歪んだ軍国主義」とか、「民主主義の不成熟」とか。でも、そういうこと言うならじゃあ、日本の近代化の歩みはいつどこで「歪められた」のか。その「特殊さ」の起源をつきつめて考えていくと、結局そこまで遡らないといけないことに気づいたんです。

――遡るといっても、普通の本なら明治かせいぜい幕末までで、日本が「欧米列強」と比べていかに「特殊」かを説明してゆくわけですよね。ところがこの本だと、なんと源平合戦まで戻っちゃうから、比較の対象も欧米ではなく中国に。

與那覇 はい。たとえば先日の*TPP論争でも「開国」や「黒船」にたとえられて、「どうして日本人はグローバル化がヘタなのか」とか、逆に「そもそもロクなもんじゃないグローバリズムに日本が合わせる必要があるのか」とか、議論されてましたよね。でも実はこれって、今に始まった話じゃないんですよ。中世の昔から日本は「グローバル・スタンダードに合わせるのか、日本独自の道をゆくのか」で揺れてきて、源平合戦も南北朝の動乱もある意味、全部それをめぐる争い。ただし、当時はヨーロッパなんて後進地域だったので、その「グローバル・スタンダード」は「中国標準」のことだった。

――それがタイトルの『中国化する日本』の由来なわけですね。

與那覇 そうです。第1章(※期間限定で無料ダウンロード実施中。2012年2月5日まで)に書いたことなんですけど、実際、日本史でいうと中世の年代に当たる宋朝以降の中国の国内秩序と、現在賛否両論の「グローバリズム」の国際秩序は、すごく似ていて。よく言えば徹底的な競争社会、悪く言うと弱肉強食の格差社会で、形式的には「平等」な条件で自由競争していることになってるにもかかわらず、実態としては猛烈な権力の「一極化」や富の偏在が起きている。そういう中国=グローバル社会のあり方を受け入れるか否か、で国論が二分されたから、日本は中世のあいだはものすごい内戦状態だったんだけど、結局、「受け入れない」という結論を出したおかげで、近世にはピタリと平和になって…。

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中国化する日本
與那覇潤・著

定価:1575円(税込) 発売日:2011年11月19日

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