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泥棒になりたかった井上ひさし

泥棒になりたかった井上ひさし

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

〈隣家の柿の木にかけのぼって柿の実をくすねるには、すばしっこさが足りなかった。餓鬼大将に手向うには大胆さがなかった。夏休みの計画を立てるに際しては細心さが乏しく、宿題はいつも最後の一日で片付ける破目に追い込まれた。少年野球で塁に出れば隣りの塁へ辿りつく走力にも恵まれなかった。すぐおだてに乗って慎重さを欠く……。

 そしてある日、講談本を読んで、自分が持ち合わせていないこれらの能力をすべて泥棒が兼ね備えていることに気づいたとき、その熱烈なる讃美者になった〉(「週刊文春」昭和五十四年=一九七九年十月十一日号)

「週刊文春」の創刊二十周年記念特別号のグラビア企画〈私はこれになりたかった〉に、登場したのが、井上ひさしの「泥棒」。となりのページが高見山の「おまわりさん」というのが、絶妙の組み合わせである。井上ひさしは、このとき、鼠小僧次郎吉ばりの黒装束に身を包んで、〈すぐおだてに乗って今回のグラビアに〉(同)――。

 昭和九年(一九三四年)生まれ。『手鎖心中』で昭和四十七年、直木賞を受賞。劇作家、放送作家として幅広く活躍した。平成二十二年(二〇一〇年)没。

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