2013.11.12 書評

見えないおじさんに導かれて

文: 尾﨑 英子 (作家)

『小さいおじさん』 (尾﨑英子 著)

 近所の神社で「小さいおじさん」が出没するという話を耳にした。小柄な中年男性のことではない。手のひらに乗るほどに小さく、中年男性の風貌をした、妖精みたいな存在らしい。スピリチュアルや都市伝説のたぐいに目がない私には、たまらないネタである。

 件の神社には初詣や厄払いなどで何度も参拝しているが、これまでにそれらしきものを目撃したことなどなかった。オカルト系に興味はあるものの、私には霊感がないらしい。この世にあらざる存在は、ご縁のある人には見えるし、ご縁のない人には永遠に見えないとも聞くし、だとしたら私にはご縁がないってことかも。いやいや、そもそもがたんなるネットの噂や遊びにすぎない? ……などと暇に飽かせて真剣に考えはじめたのが、本書『小さいおじさん』を書くきっかけだった。

 同い年の3人の女性が登場する。大手ハウスメーカーの設計士として自立しているが、突然様子がおかしくなった母親とのかかわりに苦悩している曜子。できちゃった婚の末に幼い娘の育児にいそしむが、漠然とした孤独感を埋められないでいる紀子。そして、仕事を辞めたモラトリアムの中、ある秘密を抱え、前に進めないでいる朋美。

 28歳になった同級生の女たちが、小さいおじさんが出没するという噂のある神社を中心に、密やかに交錯していくというお話だ。

 女性にとって28とは、面倒くさく、鬱々としてしまう年頃である。20代の終盤で、あらゆる選択を迫られ、あれこれと模索する。現在の仕事を続けるのか、転職をするべきなのか。結婚するのかしないのか。出産するなら、そろそろ真剣に考えたほうがいいのか……。今、決断しなければ手遅れになってしまうような、そんな焦りを覚える時期である。

 もちろん一般化するつもりは毛頭ないが、私自身がそうだったし、女友達たちもそのような悩みを口にしていた。20代の思春期とも言える、この年齢の女性たちを描いておきたかった。

 そのさなかにいる時はけっこうヘビーな時間である。だが、悩み多き10代の思春期も20歳をすぎれば懐かしくなるように、重々しく思えた30路の扉も、その先は意外と気楽なもの。振り返ってみると、なぜあんなにも焦ったのか不思議に感じるくらいあっけない。

 しかし、30代から見える過ぎ去りし日々でなく、20代のその頃に戻って、心象風景の今を描き留めてみたいと思った。もしいるのなら、小さいおじさんの力を借りて。

【次ページ】受賞後も推敲を重ねる

小さいおじさん
英子・著

定価:1600円+税 発売日:2013年10月24日

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