──この作品は以前刊行された『小さな空』の五年後が描かれています。大阪に住む二つの家族、岩本家と十和田家の交流が描かれることは変わりませんが、例えば前作で小学生だった岩本太一と十和田風希子は本作では高校生に成長しています。そもそも今回、五年後の世界を書こうと思われたのはどうしてでしょうか。
風野 『小さな空』は、実はリアルな私の家族のことが基にあった作品でした。もちろんすべて本当にあったことではありませんが、書いたときは実際に私の子供も小学生で、作品にあるように楽しいことばかりだったんです。でもその後の数年間にいろいろとありまして……(笑)。子供が中学から高校になる時期は、何もないほうがおかしい時期ですから。
──確かに前作であれだけ溌剌(はつらつ)としていた風希子などは、今回は登場する時点で、すでにある傷を負っています。
風野 はい。だから今回は、いろいろなつらいことを経験しても希望は捨てず、なんとかその困難を乗りこえることを書きたいと思いました。
──本作も風野さんが実際に経験されたことが作品の中にあるのですね。
風野 そうです。もちろんそれは「そのまま」ではなく、自分の子供の高校生活をなぞったところもあれば、私が高校生だったころの実感を描いたところもあります。リアルといってもひとつのことではなく、いろいろな人のさまざまな要素を織り込んでいます。
──リアルな出来事が核にあるにせよ、この物語はもちろん基本的にはフィクションです。執筆されていてリアルとフィクションの兼ね合いに苦労されませんでしたか。
風野 「そのまま」は、書いても読んでもやっぱり面白くない(笑)。だからドラマ性を高めるため、複雑な背景を持つ十和田正見と風希子の父娘を前作から登場させています。それでもいろいろと苦労はしましたが……。
──確かに正見と風希子は血が繋がってはおらず、実の親子ではありません。母親はすでに亡くなっていて、さらに正見は人気バンドのメンバーで……。そんな親子はなかなかいないですね。
風野 逆にいうと、正見と風希子をどれだけ実在の人物のように書けるかが重要でした。どれだけうまくできたかはわかりませんが、書いているうちに、正見が本当に自分の知り合いかもしれないという錯覚をしたことがありました。「プロのミュージシャンの知り合いなんていた? いやいや、いない」と自分で確認しましたが(笑)。
──二つの家族は交流する中で、さまざまな組み合わせで互いを支え合います。例えば岩本光江とその身体の不調を思いやる風希子は異なる家族の「母(妻)」と「娘」であるし、病気になった潤三とかれを介護する光江は、同じ家族の「夫婦」です。そして同じ家族の「父娘」である正見と風希子のあいだには支え合い以外にも「ある思い」の存在があって ……。作中で示される二つの家族のさまざまな人間関係は、物語の大きな魅力ですね。
風野 『小さな空』でも特別な主人公を設定しなかったので、今回もそのスタイルをあえて続けました。このスタイルはさまざまな人間関係を示すことができるという長所がありますが、場合によっては特定の人物の影が薄くなってしまうという短所があります。今回は雑誌に連載しているとき、家出のエピソードの後で岩本家の次男・慎二の影が薄くなってしまって、とても困りました(笑)。単行本化にあたってあらたに慎二のエピソードを加筆(単行本所収・「真新しい日々」)することができて、ホッとしています。
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