一月(『指切り』)から三ヶ月連続刊行(二月刊『花一匁』、三月刊『心残り』)となる、「養生所見廻り同心 神代新吾事件覚」シリーズ。熱い心を持つ若い同心が、事件に出会い、悩み、傷つき、周囲の助けを借りながら成長していく姿を描く、書き下ろし文庫だ。
養生所とは小石川養生所のこと。享保七年に町医者小川笙船の建議を徳川吉宗が採用して作った、低所得の病人などを収容する施療院である。本道(内科)、外科、眼科があり、町奉行所からは、養生所見廻り与力と同心がつめて管理していた。
著者の藤井邦夫さんが語る、シリーズの見所と魅力とは?
──主人公は小石川養生所の見廻り同心です。
「奉行所の同心で事件を扱うのは、定町廻り、臨時廻り、隠密廻りの“三廻り同心”です。主人公の新吾は、三廻りに憧れる若者。通常の仕事は、病人部屋の見廻り、薬煎への立会い、物品の購入など、言わば“行政マン”です。毎日、同じ仕事をするのは大変だと思いますよ。
三廻りではないので、事件に関しても、上役に命令されて、調べるということではありません。自分が出会った事件を、言わば“趣味”で調べるということ。見逃すことも平気でできる。純粋で正義感が強い若者なので、なかなか見過ごすことはできないんですが。直情的で幼さを残している人物です。
養生所は庶民がただで病気を看てもらう場所。事件の発端もここになる場合がほとんどです。弱い人との触れ合いの中で、新吾が何を感じ、若者らしく行動していけるかというのも重要な要素ですね。
新吾が達人の設定の南蛮一品流捕縛術は、実際にあった流派です」
──魅力的な人物がたくさん出てきます。
「新吾の隣の組屋敷に住んでいるのが、臨時廻り同心の白縫半兵衛。新吾が憧れる、相談相手ですね。
手妻の浅吉は、口減らしで見世物一座に売られて、手妻(手品)を仕込まれた。シニカルでひねくれているところがある人物。新吾と同じ年齢の設定です。町人と武家という関係ではなく、友人として対等な口をきかせています」
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