著者の取材力には定評があり、私も何冊か書評を担当して、実感させられている。
しかし、今回あらためて気付いたのは、度胸のよさというか、その大胆さである。
政治とカネは、古くて新しいテーマだけれども、「小沢一郎問題」として考えると、いま日本人にとって最大の関心事だろう。政権党の最高実力者として君臨しながら、二〇一一年二月二十二日の民主党常任幹事会で、「強制起訴された小沢一郎元代表の党員資格を、判決が確定するまで停止する」と、事実上の無期限処分になった。これから政局がどうなるかは、わたしなどに見当もつかないが、そのさなかの本書の刊行は、まさに時宜を得ている。
プロローグは、二〇一〇年八月二十五日午後、三重県桑名市の建設会社を訪問する場面だ。
会社のオーナーは、本書の主人公たる水谷建設の元会長・水谷功で、直撃取材の相手は、「小沢一郎の政治資金規正法違反事件におけるキーマン」である。
「〇四年から〇五年にかけ、水谷建設が小沢事務所の秘書に現金を運んだ際、その場に立ち会ったとされる。現金の授受を目のあたりにした第三者の目撃者だという。もとより事件では、検察の事情聴取を受けている。その最大のキーマンの一人と初めて対峙した」
著者は「お察しの件で参りました」と水を向けるが、「ここはお取引先でもありますしね。ご迷惑がかかってはいけませんから」ともとより応じない。ダムやトンネル工事などに欠かせないダイナマイトの発破作業を請け負ってきた業者で、岩手県のいわゆる「小沢ダム」工事でも水谷建設の下請け工事に加わった。
そういう相手が、のらりくらりとかわしているとき、がらりとドアが開いて、張本人の水谷が入ってきた。
「おお、森さん。こんなところで何しとるんや」
プロローグに、「政官業の水面下で脈々と流れてきたゼネコンマネー。それを自在に操り、のし上がってきたのが水谷建設の水谷功である。その半生を追いながら、知られざるゼネコン地下水脈の実態に迫る」とある。
いやはや、「裏金王」といえば陰険な人物をイメージするが、主人公はあっけらかんとしており、失礼ながら小沢一郎とは対照的な性格のようだ。
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