2015.02.18 インタビュー・対談

読めば必ず松茸が食べたくなる

聞き手: 「オール讀物」編集部

『御松茸騒動』 (朝井まかて 著)

読めば必ず松茸が食べたくなる

朝井まかて
あさいまかて/1959年大阪府生まれ。2008年小説現代長編新人賞奨励賞を受賞しデビュー。14年『恋歌』で直木賞受賞。その他に『阿蘭陀西鶴』『先生のお庭番』など。

 朝井まかてさんの新作は、尾張藩の特産品・御松茸の不作を何とかしようとする若き藩士・ 原小四郎の奮闘を描く『御松茸騒動』だ。

 小四郎は、幼い頃から利発で「剃刀のように頭が切れる」と評判の優秀な若者。ゆくゆくは藩政の中枢を担うものだと思い定めている。しかし、その自負心はときに傲慢に映り、周りからは疎まれる。挙句には些細な事件のとばっちりを受けて“御松茸同心”を拝命する。表向きは藩の特産品である松茸の不作を何とかせよ、という「特別な任務」であるが、体のいい左遷だ。

 時代小説にはさまざまな“同心”が登場するが、御松茸同心は史上初!? 傾奇大名として有名な徳川宗春も登場して、テーマも極めてユニークだ。朝井さんは、なぜ松茸を選んだのか。

「大阪人だからか、松茸は小さい頃から馴染み深いものでした。焼き松茸やすき焼きに入れるのもいいですけど、フライが一番。香りが閉じ込められて歯ごたえも素晴らしいですよ。国産には手が出ないので、もっぱらカナダ産ですが(笑)。今年も御松茸が楽しみだなあと思っていたとき、尾張藩の林政史料で御松茸狩りの記録に出会ったんです。家臣が御松茸を何本賜ったかが事細かに記されていたり、お姫様の御松茸狩りの際には、大勢で夜なべして庭に御松茸を埋めたりして右往左往(笑)。そのドタバタぶりがおかしくて、かつ勤め人の切なさもあって。これは小説になるんじゃないか、と」

 畑違いの部署に飛ばされて、都会育ちの小四郎は途方に暮れるばかり。生まれてこの方、不況しか知らない。ゆえにひたすら学問を身につけてきたのに、それが何の役にも立たない。しかも年配のオヤジ達はかつて尾張に訪れたバブルが忘れられず、財政赤字は増える一方だ。誰の助力も得られない小四郎は、初めての挫折が骨身に沁みる。

「あるとき若い方の、『生まれてからずっと不景気でした』という一言を聞いてハッとしたことがあるんです。バブルを経験した世代としては、あまりの温度差にいろいろと考えさせられました。不景気の中だけを生きてきたら慎重にならざるを得ないですよね。でも一方で、若い間はもっと羽目を外してみたら? どうせ人生は計画通りには進まへんのやから、道を逸れたり穴に落ちたりしても、また始められるんとちゃうの? と。私は今思い出しても青ざめるような失敗を数々やらかしてきましたが(笑)、その口惜しさや恥ずかしさも全部、私の血肉なんですよね。小四郎は不遇の中で、人とかかわらざるを得なくなります。強くなれ! という願いを込めて書きました」

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『御松茸騒動』 (朝井まかて 著) 徳間書店

オール讀物 2015年2月号

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