レビュー

誰がカオス理論を破れるか

『科学は大災害を予測できるか』 (フロリン・ディアク 著/村井章子 訳)

文: 川島 博之 (東京大学大学院准教授)

  ;旧約聖書の中には、ヨセフがエジプト王の見た不思議な夢を解釈して、七年間の豊作とそれに続く七年間の飢饉(ききん)を預言した話が出ている。預言により、ヨセフは王の信頼を勝ち得て、宰相にまで上り詰めたとされる。この物語は、太古から、人間が未来を知りたいと考えていたことを表すものである。我々が科学と呼んでいるものは、人間が未来を予測したいと考えた結果作られたものであり、その典型は、占星術から発達した天文学であろう。

「科学は大災害を予測できるか」と題した本書では、人類に大きな厄災をもたらす、台風、気候変動、小惑星の衝突、金融危機、パンデミックを取り上げて、その予測の現状について語っている。実際の予測にはたくさんの数式が使われているが、本書では数式は一切使われていないから、数学にアレルギーを持つ方でも、容易に読み進めることができよう。

 興味深い話が数多く語られているが、その中でも小惑星の衝突の話は、評者もちょっと恐怖心を煽(あお)られた。恐竜絶滅の原因の一つとして、小惑星の衝突があげられていることは知っていたが、小惑星が多数あるために、人類が気づかなかったニアミスが頻繁に起きているのだそうだ。なにかの拍子に、小惑星が地球に衝突しても、少しもおかしくないと言う。現在は、原爆などを使って小惑星を破壊することも考えられているが、太陽の方向から近づいてくる小惑星は発見が難しいなどと言われると、ぞっとする。

 内容については、お読み頂くとして、評者はシステム分析を専門にしてきた者であるから、その立場から予測について少し述べてみたい。本書に述べられている、台風、気候変動、小惑星の衝突に関する予測は、簡単なケースでは容易に答えが見つかる。例えば、太陽と地球しか存在しない系の軌道は簡単に求めることができる。しかし、それに木星や土星などが加わると、多体問題になって、その軌道を求めることは、簡単ではなくなる。

 評者の専門とするシステム分析も、同じように、農業問題、経済問題、都市問題などの多体問題を、複数の条件設定から、連立方程式を解くようにして考えていく学問である。現在、コンピューターの発達により、多体問題のように複雑な現象でも、かなり精度の高い解が得られるようになっている。最近、台風の進路予測はかなり正確になったと実感される方も多いことであろう。その一方で、微小な違いによって結果が大きく異なってしまうというカオスと呼ばれる現象があるために、長い期間の予測が難しいことも明らかになっている。

科学は大災害を予測できるか
フロリン・ディアク・著 , 川島 博之・解説 , 村井 章子・訳

定価:1600円(税込) 発売日:2010年02月25日

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