2013.12.13 インタビュー・対談

なぜか無性に漁師を書きたくなった

聞き手: 「本の話」編集部

『漁師の愛人』 (森絵都 著)

――今月上梓される『漁師の愛人』は、『オール讀物』の「ラフスケッチ」シリーズから5篇を選んで収録されています。足掛け7年にわたる連載企画になりましたが、どういうきっかけで始められたのでしょう。

 直木賞を受賞して、『オール』に何か新作をというお話をいただいたのですが、ちょうど短編をちゃんとやりたいと思っていた時期で、どうせ書くなら10年続けられないかな、と。

――10年。覚悟のいる長さですね。

 10年続ければ、なにかしら短編をつかめるような気がしたんです。ある程度上達できるかなって。初めの1年は毎月の連載だったのですが、それぞれ独立した話ですし、大変なことになってしまって。この〆切だとほかのことが全然できない状態でした。それで2年目からは年に4回。去年あたりまでは基本そのペースで続けてきました。

――短編の上達を当時目標にされていたとすると、もともとの主戦場は長編、ということになるのでしょうか。

 児童文学出身なので、デビューしてから短編を書く機会がなくて経験もあまりなかったんです。児童文学には短編を掲載する受け皿となる雑誌がないので、必然的に1冊の長さになるものを書いていくことになるんですね。

――このシリーズでは、人生の断面や場の変化をとらえる瞬発力が鮮やかな短編を数多く書いてこられましたが、新作は短編と中編で構成されていて、森さんの長編作家的な良さも味わえますね。プリンをモチーフにした3篇が本来の〈ラフスケッチ〉のラインでしょうか。読んでいると無性に食べたくなってしまうのですが、お好きなのですか。

 どちらかというと甘い物は得意ではないんです。でも給食を振り返ってみると、献立の2大プレミアムってやはりプリンとクレープだったと思うんですよ。実は中学のとき、クラスでプリンの数が足りなくなるという事件が本当に起きて、放課後先生に全員が残されて犯人捜しをしたことがありました。問いただされているうちに男の子たちがいやになっちゃって、いいよ、おれたちがしたことにすればいいんだろ、っていうことになった。その時のことが心に残っていたんですね。子どもって、大人に引けを取らない感情や理屈があっても言葉がついていかなくて、口にした途端、みんな矮小化されてしまう。そのもどかしさも描きたかったんです。

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漁師の愛人
森 絵都・著

定価:1300円+税 発売日:2013年12月16日

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