レビュー

自殺大国日本が抱える病に切り込んだ
社会派ミステリー

『死の天使はドミノを倒す』 (太田忠司 著)

文: 田口 幹人 (さわや書店フェザン店店長)

 太田忠司という作家を野球の投手に例えるなら、様々な球種を投げ分け緩急を織り交ぜ打者を手玉に取る技巧派の投手でありながら、ときには直球を武器に打者をねじ伏せる本格派の投手であり、長いイニングも短いイニングも安心して任せることができる様々な経験を積んだベテランの投手である。本書は、そんな著者が読者に投げた真っ向勝負の剛速球だ。

 年々売れなくなる落ち目の作家である兄の鈴島陽一と様々な凶悪事件の被告人の弁護を担当し、人権派弁護士として注目を集めている弟・鈴島薫。家族とはほぼ音信を絶ち父の葬儀にすら姿を見せることをしなかった薫。薫と連絡をとる必要に迫られた陽一は、薫が失踪状態であることを知る。陽一は、薫の人権派としての弁護活動に批判的な週刊誌の記者・堀に担ぎ出される形で薫を探し始め、薫の足跡を追ううちに、自殺防止に力を入れボランティア活動をするNPO団体が運営する「きずな電話」の周辺で起こった幾つかの自殺事件にたどり着く。

 それは、電話相談員だった1人の女性が自殺志願者を死に誘導したという「死の天使」事件として世間を騒がした事件だった。その「死の天使」事件の加害者の弁護人を務めていたのが薫だったのだ。本書は、兄と弟、そして家族の確執を縦軸に、年間3万人もの人が自ら命を絶っている「今」という時代が生んだ病巣を横軸とし、複雑に絡み合う不思議な「死の天使」事件の真相に迫る社会派のミステリー小説である。ミステリー小説の性質上、あまり細部をご紹介するとこれから読まれる方の興を削ぐ恐れがあるのでこれ以上は避けたいと思う。

ぜひ2度読んでほしい作品

 著者は、「生きること」に真摯に向き合い「死」というものを見つめる作品を多く書いてきた。作家活動をする上で著者がもっとも大事にしているテーマのひとつとなっているのではないだろうか。

 ラスト2行の衝撃があまりにも大き過ぎて読後の余韻ばかりが注目された作品だが、ノストラダムスの予言を知った高校生達が、自分たちとは縁のなかった「死」を初めて意識する。大人になり、それぞれの道を歩む彼らは、それぞれ滅亡までの限られた時間をどのように生きたのかを描いた『虹とノストラダムス』(PHP研究所刊)は、その代表作だろう。また、亡くなった人が最後に抱いていた想いを伝える月導と、それを読み取り言葉にして遺されたものに伝える月読を幻想的な世界観で描いた物語『月読』やその続編の『落下する花』もまた「死」というものを考えさせてくれる作品となっている。本書もその作品に通じる1冊であり、著者が現時点でたどり着いた答えの1つが、作中の事件や裁判というものを通じて示されている。

 死刑制度や自殺問題など、「生」と「死」という非常に重いテーマが語られる場面が続くのだが、さすがベテラン投手、緩急を織り交ぜるからこそ活きる速球があることを熟知している。随所に綿密に張り巡らされた仕掛けや謎を提示することで、堅苦しさをまったく感じさせず、読む者を物語の世界へと誘い、途中で打席を外すことを許さず、最後の最後まで一気に読ませてくれた。それぞれの仕掛けが繋がり、パーツが1つずつ埋まった時に残る余韻は、爽快さという一言で表すには足りない複雑な想いを残してくれる。

 本書は、ぜひ2度読んでほしい。2度目は、仕掛けや謎の球筋を追いながら。その時、気づくはずだ。太田忠司が投げた球は、「剛速球」ではなく、やはり「魔球」だったのだと。

 余談だが、本書には最近大きな話題となったいくつかの事件と酷似する事件が登場する。偶然かもしれないが、なんとタイムリーな作品なのだろうか。そこまで計算されているかもしれないと思わせる著者の力量に感服した。

『死の天使はドミノを倒す』
太田忠司・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2014年06月26日

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