本書は、戦前、戦中に中国で発行された国策新聞『大陸新報』への朝日新聞社の関与を実証的に究明することによって、朝日の体質を解明した画期的研究書だ。
朝日は、日本の政治エリート(特に国会議員と官僚)に対して特に強い影響を与えるメディアだ。新聞社に入社したばかりの新人は、朝日、読売、産経、共同など、どの会社でも記者の性格にそれほどの違いはないのだけれど、入社10年くらいで朝日の記者には特徴が出てくる。評者が外交官だったときの経験を言えば、外務省幹部は朝日に対して、特別の配慮をしていた。外交の円滑な遂行のためには世論の支持が不可欠だ。しかし、多くの重要な外交交渉は秘密裏に進めなくてはならない。そのなかで政府の方針をメディアにさりげなく伝える必要が出てくる。外務省幹部が「ここだ」というときに秘密情報をリークするのはいつも朝日の記者に対してだった。それには2つの理由があった。
第1は組織規律がしっかりしていて、朝日にリークしても情報源が露見することはないという信頼感があるからだ。評者が現役の頃、外務省は霞クラブの政治部記者に政治家とのオフレコ懇談の内容を含む政局に関するレポートを書かせ、カネを払うというかなり乱暴なメディア工作を行っていた。その政局レポートには、「取扱注意」の判が押され、全世界の日本大使館に「厳に当省(外務省)出身の幹部館員に限る」という但し書き付きで配布された。オフレコ懇談の内容を外部に漏らし、それでカネを受けとったことが表に出れば、どの新聞社でも記者はクビになる。それをわかった上で外務省は政治部記者と「黒い友情」を育むためにこのような工作を行っていたのだ。この裏仕事を担当する外務省報道課員が評者に「朝日の記者はどんなに親しくなっても政局レポートに乗らないんだよね」とこぼしたことがある。これくらい規律が厳しいので、朝日には安心して秘密情報をリークすることができたのだ。
第2は、朝日には外務省人事に手を突っ込むのが好きな妖怪記者が多いからだ。こういう記者に情報面で「貸し」を作っておくと、人事上のプラスになるということを外務省幹部は経験則で知っていた。評者の個人的経験でも、鈴木宗男バッシングのときに朝日の某政治部記者が、評者が連載をもっていた『世界』(岩波書店)編集部に「佐藤優を使うな」というファックスを送りつけたことがある。本人はそれが絶対に正しいと思っていたのだろう。また、2002年5月14日に評者は東京地検特別捜査部に逮捕された。その2日前に朝日の社会部記者が述べたことを評者は一生忘れない。その記者は、「私たちの取材に対して答えたくないのでしたらそれでもいいでしょう。ただし、検察に対して黙秘は通用しませんよ。検察官に対しては真実をすべて話すことがあなたのためです」と説教した。
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