2009.08.20 書評

天皇の重み

文: 城山 英巳 (時事通信外信部記者)

『中国共産党「天皇工作」秘録』 (城山英巳 著)

   八月三十日の衆院選を控え、ある中国政府の対日当局者はこうつぶやいた。

    「中南海(政権中枢)に向けて日本や日中関係の重要性を示せるチャンスです」

   政権交代の懸かった衆院選について自分たち「ジャパンスクール」の存在感を、胡錦濤国家主席ら指導部にアピールできるまたとない好機ととらえているのだ。そのため選挙分析・予測や政局動向を上層部向けに積極的に報告しているという。

   中国外務省内部で対日関係を扱う日本課と言えば、「花形」である。しかし日本の長引く景気低迷、首相がころころ代わる不安定な政治、そして何より中国の台頭により、国際社会の中で日本の地位や影響力は相対的に低くなった。これに伴い、彼らの存在感も低下し、逆に対米当局者や国連など国際機関担当者の存在感が増した。

   首相が代わろうとも、政権与党が代わろうとも、常に対日関係を安定させることが対日当局者の使命である。今夏の衆院選こそ、「日本」が目立つチャンスなのだ。

   対日当局者たちはこれまで自民党との関係だけでなく、民主党とのパイプづくりにも力を入れてきた。中国外務省の対日当局者らの多くは「既に深い関係にある自民党の方がやりやすい」と話すが、与野党問わず、「全方位外交」を展開してきた。

   特に政党間交流を担当する共産党対外連絡部は「民主党政権」も視野に工作を進めてきた。今年二月に来日した王家瑞・対外連絡部長は与党交流が目的だったにもかかわらず、麻生太郎首相より小沢一郎・民主党代表(当時)と長く話し込んだほどだ。

   民主党政権が誕生したとして、中国の対日工作の手法に変化は出るのか――。答えは「ノー」だろう。

   日本に一人でも多くの「親中派」をつくり、日本国内を中国と友好的な雰囲気にするという対日工作の基本は毛沢東時代から一貫しているからである。

   十月に建国六十周年を迎える中国にとって日本は利用価値が高かった。一九五〇年代は米国による対中封じ込めを崩すため、米ソ対立が激しくなった七〇年代にはソ連を牽制するため対日接近を図った。中国が改革・開放を本格化させた八〇年代、日本は経済協力を獲得できる相手になった。一方、天安門事件を経て九〇年代以降、共産党の求心力が失われる中、日本に侵略された屈辱の近代史が前面に出され、愛国教育の名の下、ナショナリズムを高揚させるため矛先を「日本」に向けた。

中国共産党「天皇工作」秘録
城山 英巳・著

定価:798円(税込) 発売日:2009年08月20日

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