インタビュー・対談

弱者救済に奔走する女性警察官の苦闘

『フライ・トラップ JWAT・小松原雪野巡査部長の捜査日記』 (高嶋哲夫 著)

聞き手: 「本の話」編集部
弱者救済に奔走する女性警察官の苦闘

――二月に文春文庫から発売される、書き下ろし小説『フライ・トラップ JWAT(ジェイワット)・小松原雪野巡査部長の捜査日記』ですが、「フライ・トラップ」というタイトルが謎めいていて面白いですね。

高嶋 「トラップ」は「罠」、「フライ」は「蠅」で、蠅をとらえる罠、「食虫植物」のことです。小さな虫を甘い匂いを出す蜜や美しい花でおびき寄せ、ネバネバで捕らえたり、ウツボカズラのように壺のようになった自身の中に落として、それを栄養にする植物です。そこに幾つかの意味を込めました。甘い言葉の誘惑、1度はまると抜け出せない麻薬の恐ろしさもその1つです。ごく普通の子供たちもそのトラップに陥る危険があります。サブタイトルにあるJWATは、県警の生活安全部の中に設置されている部署で、子供や女性を犯罪から守る特別チームのことです。主につきまといや痴漢といった女性や児童を狙う犯罪や、少年非行などを予防する組織です。

――実際にある組織なのでしょうか。

高嶋 ええ、あります。全国各都道府県警にあります。僕は岡山のテレビ局に友人がいて、ぜひ岡山県警を取材してほしいということで、いろいろ話を聞いたなかでその存在を知りました。さらに、あまり知られていませんが、岡山県警はIT、デジタル技術の分野では日本でも非常に優れているんです。2011年の東日本大震災の応援の際も、GPSなどを自在に活用して貢献したそうです。

――警察小説というと殺人の捜査一課などが、すぐに思い浮かびますが、生活安全部・JWATを舞台に描かれたのはなぜでしょうか。

高嶋 警察小説はこれまでも多くの名手の方々が、さまざまな視点から書いておられます。生活安全部の通称JWATは、私たちの身近に密接に関わってくる反面、警察小説としては、あまり脚光を浴びてこなかった部署かもしれませんね。しかし、多感な時期にある子供たちが、苦境に陥ったときに側にいて救いの手を差し伸べてくれるのは彼らではないでしょうか。平穏な生活をふとしたきっかけでひっくり返す闇との境界線に、彼らは立っています。書き進めていくうちにJWATの面白さ、奥深さ、重要性がますます実感として湧いてきました。

――高嶋さんは教育に携わっていたことがありますね。子供たちのことがわかり、気にかかっていたということもあるのではないでしょうか。

高嶋 塾を経営していました。現在でも大学で若い人たちと関わっています。そういう意味で子供や学生のことは他の大人より多少わかっているかもしれません。

 安倍首相が教育改革を唱えていますが、役人や政治家は教育の現場を本当に把握しているとは思えません。アメリカに留学していた時に感じましたが、愛国教育で国や国民が一つにまとまるというのは確かにあります。しかしそれと個々の子供たちを育てていく教育とは別のものです。

 子供はもともと頭でっかちなものです。現在ではそこに溢れるほどの情報が入っています。情報処理が追いつかないのではないでしょうか。

 それに、現代社会は色んな分野で豊かになった分、一昔前とは比べ物にならないほど複雑になってきました。それに伴って、様々な子供たちが出てきています。子供たちも大人と同様、社会に対応すべく、生き抜くためにもがいています。『フライ・トラップ』に登場する高校生たちも、それぞれに家庭や人間関係に悩みを抱え、必死に生きていますが、知らず知らずのうちに犯罪に巻き込まれていきます。主人公・雪野巡査部長の「節目節目で少年たちにもっと適切な方法をとっていれば」という言葉は、僕自身の想いでもあります。

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フライ・トラップ

高嶋哲夫・著

定価:580円(税込) 発売日:2013年02月08日

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