――アジア各国の物乞う人々を取材した『物乞う仏陀』が好評です。そもそも海外への興味はいつ頃に芽生えたんですか。
石井 僕の両親は大学を出てすぐにイギリスに留学して演劇の勉強をしていました。僕が生まれる一年前までずっとロンドンにいたんですね。叔父もメキシコに留学していて、今は隣の家に住んでいるんですが、南米の輸入品の卸の会社をやっています。そのため、小さい頃から海外の話を聞かされて育ったんです。物心ついたときから漠然と、僕自身もいつか外国に行くだろうと思っていましたし、行くなら両親も叔父も行っていない国に行きたいという思いがありました。
――最初の旅行が石井さんのその後を決めた?
石井 ええ。本にも書きましたが、大学一年のときのパキスタンへの旅でした。アフガニスタンとの国境に近いペシャワールという町に行ったとき、白髪の老人がふらふらとやってきて、「お前にアドベンチャーさせてやろう」と言うんです。銃を見せるし、撃たせるし、爆弾でも何でもあるぞと。うわっ、行きたくねーなと最初は思ったんです。だけど、写真でも撮ってきて、日本に帰ったら友達に自慢してみるのもいいかなと気を取り直して(笑)、その老人について行ったら、難民キャンプだったわけです。
――もちろん、初めて見るものですよね。
石井 見渡す限りボロ布のテントと土を塗り固めた家が広がっているんです。アフガニスタンは地雷が多かったし、戦争で負傷した人たちもたくさんいました。それが障害者の難民であり、物乞いであったわけです。まさに圧倒的なスケールの体験でした。
――大学時代は、旅行以外にはどんなことに興味が?
石井 好きだった学問は民俗学です。当時ちょうど流行っていたのが「異人」ですね。つまり、「人であって人とは異なる者」についての研究です。それに関する本を読み漁っている中で、差別や呪術や芸能や病気などに対する興味を抱くようになりました。
――とすると、物乞いへの関心もその延長線上ですか。
石井 だと思います。ですから、大学時代は中国、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、インド、ネパール、イランなどに行きましたが、そのときも町にいる物乞いは常に気になる存在でした。当時は怖くて話しかけられませんでしたけど。
――大学を卒業してから今回の本の取材を始めるわけですが、その怖いという気持ちはどうやって飛び越えたんですか。
石井 いつしか、怖いという気持ちよりも、彼らのことを知りたいという気持ちのほうが強くなっていたんです。もし自分が障害者だったら、障害や病を人前にさらしてまで物乞いはできないだろうと思いました。だからこそ、彼らが障害を見せて物を乞う背景には何があるのかということを知りたくてしかたがなかったんです。
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