2013.08.06 書評

「中国の女、台湾の女そして日本の女」──「場の力」が女を創る

文: 金 美齢 (評論家)

『中国の女』 (福島香織 著)

 二〇一三年のゴールデンウィークの休み中、資料を整理していたら、古い新聞の切り抜きが出てきた。そのいくつかが福島香織さんの記事だった。北京駐在としては初めての日本人女性新聞記者ということで、彼女の記事はいつも注目していたのだ。

 福島さんに初めて直接会ったのは、二〇〇一年十二月の台湾の立法院・地方首長選挙のときだったと思う。当時、産経新聞の台北支局長だった矢島誠司さんに引き合わせてもらった。私は「台湾大地震(一九九九年九月二十一日)であなたが書いた記事、すごくよかったわ。あなたの記事、愛読している」と褒(ほ)めたのを覚えている。それは、地震で娘を失った母親に躊躇(ちゅうちょ)しながら取材しようとした福島さんが逆に励まされたエピソードを書いたもので、悲しみの中でも他者への配慮を忘れない台湾女性の優しさ強さを描いていた。

 福島さんが北京勤務を終えて日本に帰ってきた後にお会いしたときも「あなたの記事はすごくいい」と褒めたら、彼女は「実は私の記事は知識人女性にはウケが悪い、と言われているんです」と言う。

 当時の中国総局長・伊藤正さんが、知り合いの知識人女性から、福島さんの記事には“女の媚(こび)”があって嫌いだ、と言われたそうだ。その話を聞いた福島さんは「金美齢さんは私の原稿が好きだと言ってくれましたけれど」と反論すると、伊藤さんは「金美齢さんは、あれは女じゃないから」と返したそうだ。私はそれを聞いて、思わず噴き出した。伊藤さんは直接存じ上げないが、私のことを「女じゃない」と言うその顔が目に浮かぶようだったからだ。この「金さんは女じゃない」と言う発言は、褒め言葉だと感じた。日本語の「女」の中には「女々しい」「か弱い」「媚」「従順」「控えめ」といったイメージがあり、まるっきり人に媚びず、毒舌で言いたい放題の「金さん」は、確かに日本人男性の女イメージの疇範(はんちゅう)外だろう。だが「女」を超えた「人間」として評価してもらっているという点で、「女じゃない」と言われることは、むしろ光栄なのだ。

 福島さんから、本書『潜入ルポ 中国の女──エイズ売春婦から大富豪まで』の「解説」を寄稿してほしいと頼まれたとき、この昔話を思い出した。「女じゃないと言われた金さんだけど、人間として中国の女も台湾の女も日本の女も深く知っているはず」と彼女は言う。なるほど、そう考えればこの本の「解説」を書く適任者かもしれない。

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潜入ルポ 中国の女
福島香織・著

定価:588円(税込) 発売日:2013年08月06日

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