レビュー

「かわいそう」の神髄に迫る

『かわいそうだね?』 (綿矢りさ 著)

文: 東 直子 (歌人・小説家)

 最初に「かわいい」という言葉を覚えたころは、動物や赤ちゃんなどの典型的なかわいらしさに対してのみ使われていた気がするが、いつの間にか、若い女性、それほど若くない女性、衣服や鞄、乗り物、建物、ドジな人、おじさん、おじいさん、お化けの類まで、「かわいい」と言われるようになった。そんな、様々な場面で様々な状況の人を様々に救う「かわいい」という言葉は、もともと「かわいそう」という意味で使われていたという。不憫で、気の毒で、哀れで、「顔映(かおは)ゆし」、つまり目映くて顔を見ていられないほどだ、ということだったそうだ。

 その「かわいい」に「そう」をつけて推量の形にしたのが「かわいそう」ということになるのだが、意味的には「哀れで、不憫で、気の毒」等々の、「かわいい」の語源の意味の方を引き継いでいる。とはいえ「かわいい」の言葉を秘める「かわいそう」という言葉には、現代の多様な「かわいい」の意味も含まれている気がする。

 外見的には「かわいい」わけではないおじさんも、どこか弱い部分を見せて、それが愛嬌につながれば「かわいい」を引きだせるように、どこか自分よりも弱い部分、かばってあげたくなる部分が見つかったとき、「かわいそう」も生まれているように思う。

 表題作の『かわいそうだね?』は、そんな現代の「かわいそう」に迫る、実に絶妙な小説である。

 物語は、彼氏の隆大が主人公の樹理恵に、昔の彼女であるアキヨを自分の家に居候させることを赦してほしいと願い出ることから始まる。恋人がいるのに、元恋人を自分の家にいさせてあげる、という言語道断の行動を取らせる理由はたった一つ、「かわいそうだから」。もちろん正規の彼女である樹理恵は、そんなことは嫌だと抵抗するが、「かわいそう」という温情でなされていることに対する非難は、非難している側の人間性を試されるような気がして、結局強く押しきることができず、寝室を必ず分ける、などの条件の元、受け入れてしまうのである。

 とはいえやはり変ではないか、と後輩や英会話の先生に相談したり、隆大とアキヨが住む部屋を、隆大がいない間に急襲したり、する。しかし、事態は解決しない。隆大が一貫して「かわいそう」と守る、一見弱々しいアキヨの、思惑があるのかないのかわからない、はかなげに見えて実は大胆な態度で、流れはだんだんアキヨの手になる方へと進んでいくのである。

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かわいそうだね?
綿矢りさ・著

定価:500円+税 発売日:2013年12月04日

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