――さまざまな手法で多彩なテーマの作品を発表されてきた貫井さんですが、この作品は細やかな心理描写の一人称で物語が進みます。執筆するにあたって、今回の形を選んだきっかけは何だったのでしょうか。
「僕は出身が鮎川哲也賞だったので、トリックやどんでん返しにこだわった作品をずっと書いてきました。人物描写に関してはキャラの区別がつけばいいくらいに考えていて、正直どうでもよかった(笑)。でも作品全体の完成度を上げるためにはしっかりした人物描写は必要で、手を抜くことなく、これまでやってきました。
ところが読者の反応をみると『人物描写が印象に残った』とか、場合によっては『トリックがなかった方がよかった』とまで言われる(笑)。そういうことはデビュー当時からさんざん言われましたが、僕はそれに反発して、トリックやどんでん返しにこだわった作品を書いてきました。でも最近になって、『人物描写』という自分の長所をこれまであまり生かしてなかったのでは、と思うことがあった。年をとって丸くなったのかもしれませんが(笑)。ならば今回はそこに力点を置いた作品を書いてみようと考えて、この形にしてみました」
――主人公は高い評価を得ながら、8年前に突然絶筆した『咲良怜花(さくら れいか)』という美貌の女性小説家です。この設定についてはどのような目論見があったのでしょうか。
「今回は長いタイムスパンの話を書こうと最初に考えたのですが、そうすると主人公の日常レベルのことまで書かなければいけない。もしOLが主人公なら、会社での様子やそれ以外の日常生活を細かく書く必要があります。でも僕はあまり会社勤めの経験がないので、それはよく分からない。ならば自分が内情をよく知っている職業は何かと考えて、主人公を小説家にしました。
女性にしたのは、男性の小説家である僕自身のことを投影させたくなかったから。距離を保ちながら、あくまで職業の1つとして小説家を書きたかった」
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