スーパーの保安責任者の平田は、万引きした末永ますみを警察に突き出さず帰らせた。恩義を感じたらしいますみは、平田にまとわりつくようになるのだが。そのように始まる『春から夏、やがて冬』は、『葉桜の季節に君を想うということ』でブレイクした歌野晶午らしい一筋縄ではいかない展開をみせる。新作について著者に聞いた。
――この作品はいつ頃から構想していたのですか。
歌野 二、三年くらい前からです。以前、『ハッピーエンドにさよならを』という短編集を出しましたが、僕の書くものは結末がアンハッピーエンドになるのが多い。それは、自分がそういう作品が好きだから意識して書いているわけで、突き放したような終わり方が好みなのですが、一般的に小説を読む人はそういうものを好んでいないということがよくわかってきた(笑)。だから、やっぱり普通に着地する小説を書かなければいけないのかなと思っていたのですが、かといって、いわゆるハッピーエンドの作品は書きたくない。ならば、アンハッピーな突き放した終わり方ではあるけれど、見方によってはそうではないようにも思える、そういう両立はできないかと二、三年前くらいから考えてできたのがこの作品です。
僕の場合、タイトルは最後まで決まらないことが多くて、いつも仮タイトルで書き進めるんです。今回は当初から、『春から夏、やがて冬』に近いタイトルも考えていたのですが、「安らかに」という仮タイトルで書いていました。この言葉も小説の内容を表わしていることになるかと思います。
――今回の新作は『葉桜の季節に君を想うということ』と版元も担当編集者も同じですが、一時期は同作の続編も考えていたそうですね。
歌野 アイデアは二つくらい何となくあるんですよ。でも、特に書く必然性があまりないというか(笑)。単に同じキャラクターによる小説というだけで、作品として新しい何かがあるとかそういうことでもないので、書く優先順位がどうしても下がってしまう。もっとほかに先に書かなければいけないものがあるではないかと思い、そういう仕事をやっているうちに、『葉桜』の続編は保留、保留を繰り返し、そのうちに『春から夏、やがて冬』を書くことになりました。だから、『葉桜』の続編は、将来書くことがあるかもしれませんが、とりあえず今のところの予定にはないです。ただ、アイデアは持っています。