一年と少し前にデビューしました。一年と少しのあいだに何がどうなったのかわからないのですが、僕はいま、漫画編集者の話を書いています。
主人公は大学を出たての二十二歳、山田友梨です。彼女はとある出版社に就職し、文学少女でありながら青年漫画誌編集部に配属されます。
そんな山田の物語を書いている僕は、山田より学年が二つ上なのですが、実はまだ学生をやっています(恥ずかしいので、ここだけの話)。だから、社会に出るということがどういうことなのかわかりません。そのうえ、小説を書くということがどういうことなのかもわかりません。もしかしたら僕は、小説を書くことを通して社会に出て(関わって)いこうとしているのかもしれないけど、どうだろう。自分のことなのに、よくわかりません。
こうして考えてみると、世界も、そして自分も、ほとんど「わからないこと」でできているなあという気がします。未知です。そして、未知の世界は何によらずこわい。
でもそういう不安を、漫画編集という未知の世界に放り込まれた文学少女・山田に託して、山田とともに物語を駆け抜ければ、何か見えてくるものがあるんじゃないか。そう思い、この小説を書き始めました。というか、いまこの文章を書きながら、そう思いました。書き始めるときにも、おおむねそんなことを思っていたんじゃないかと思います。そんなに意識していなかっただけで。
どうか山田(と僕)が、未知の世界を右往左往して駆けずり回る姿を見守っていただければ幸いです。
「別冊文藝春秋 電子版5号」より連載開始
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