2015.10.13 特集

日本最後の秘宝館

文: 妙木 忍 (北海道大学特任助教・社会学者)

かつて全国の温泉地に点在したエロスとユーモアの博物館。 唯一現存する〈熱海秘宝館〉の内部をご案内。

性とユーモア―秘宝館の魅力―

「オール讀物 2015年10月号」掲載

 秘宝館は性をテーマにした遊興空間であり、昭和の日本に花開いたレジャー施設だ。その起源は、三重県伊勢市近郊の元祖国際秘宝館(一九七二年開館、二〇〇七年閉館)にさかのぼる。比較的新しい文化と言えるだろう。最盛期の八〇年代には全国各地に少なくとも二十館は存在していた。

 元祖国際秘宝館は「保健衛生コーナー」を特色とし、性愛について理解を深めてほしいという創設者の願いから、妊婦の医学模型や性病の症例模型など医学展示が多数設置されていた。その後、医学的要素を排し、娯楽的要素を強めた訪問者参加型の秘宝館が別府、嬉野といった温泉地を中心に次々とオープン。これらの秘宝館の多くは東宝出身者設立の会社「東京創研」が施工したため、人体模造と舞台・映像技術がみごとに融合している。〈熱海秘宝館〉はこのタイプの代表格だ。例えば「マリリン・モンロー」はハンドルを回すと、蝋人形の足元にある地下鉄の通気口から風が吹き上がり、スカートの中が露になる。「飛び出すヒップ」は迫りくる豊満なお尻の映像に思わず手を伸ばすのだが、触れそうで触れないのがもどかしい。そして、「珍説一寸法師」は映像・人形・音楽が三位一体となった喜劇で、そのダイナミックな音楽と映像の動きに目を奪われてしまう。

チケット売り場ではマーメイドがお出迎え

〈熱海秘宝館〉は創業当初より、ユーモアを重視し、パロディや地域性をちりばめ、男性にも女性にも愛される施設を追求してきた。その先見の明は、今日の女性客人気にも引き継がれているように思う。

 九〇年代以降は団体旅行の衰退による入館者数の減少や後継者不足などにより、秘宝館の閉館が相次いだ。現存するのは〈熱海秘宝館〉のみである。しかし、高度な技術と笑いとエロスが織り成すサブカルチャーの傑作が絶滅してしまうのはあまりに惜しい。

魅惑のコスモロード  ブラックライトに照らされ、蒼白く浮かび上がるバストとヒップの宇宙を彷徨う
昭和の面影を残す建物外観

 ぜひ一度、秘宝館に足を運んでみよう。自分でも想像できないような発見があるかもしれない。友達同士や恋人と連れ立っていくのもお勧めだ。遊園地で遊ぶ子供のように、参加型展示に夢中になっているお互いの姿に出会えるだろう。秘宝館の楽しい世界は、何度訪れても味わい深い。

写真◎石川啓次

妙木 忍(みょうき しのぶ)

北海道大学特任助教。社会学者。2014年『秘宝館という文化装置』を上梓した。

オール讀物 2015年10月号

定価:980円(税込) 発売日:2015年09月19日

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