1970年4月――。日中国交正常化の2年前の羽田空港に到着した香港発台北経由の飛行機から、一人の青年が降り立った。その青年に、多くのカメラのフラッシュが向けられた。
青年の名は城戸幹――私の父である。
父は28歳のとき、文化大革命まっただ中の中国から、ほぼ自力で帰国した、「中国残留孤児」だ。帰国当初は「中国残留孤児」という言葉はなく、当時の新聞では「満州孤児」「中国孤児」と表現されていた。中国残留孤児の集団訪日調査が始まるのは、父の帰国から10年以上過ぎた1980年代に入ってからである。
そんな父の半生を娘の私が取材し、まとめた『あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅』が、情報センター出版局から出版されたのは、2007年9月のことだ。あれから5年が経ち、今回、文藝春秋より文庫として発売されることになった。
幼少のころから、父と中国とのかかわりを知ってはいたものの、中国や中国語を避けていた私が、父のことを書きたいと思い立ったのは21歳のときだった。しかし、簡単には物事は進まなかった。実際に出版できたのは31歳。結果的には10年の歳月を費やすことになった。ただ、今振り返ると、これらの時間は自分自身が成長するため、必要な時間だったと思う。そして、出版することで、「私につながる歴史をたどる旅」は終えたつもりだった。