- 2011.03.20
- 書評
君たちは、絶対に成功する
文:岩瀬 大輔 (ライフネット生命保険株式会社代表取締役副社長)
『ネットで生保を売ろう!――’76生まれ、ライフネット生命を立ち上げる』 (岩瀬大輔 著)
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#政治・経済・ビジネス
1月末、スイスの山中にある人口1万人強の小さな村に2500名の企業経営者と政治指導者が集まり、5日間に渡って世界情勢について意見を交わしていた。世界経済フォーラムの年次総会、いわゆる「ダボス会議」である。
本会議場から徒歩10分のホテルで開かれた少人数のランチセッションには、米AIGや米プルデンシャル、独アリアンツやスイス再保険といった世界を代表する保険会社のトップ9名が招かれていたが、彼らと肩を並べて、まだ設立3年にも満たない日本の小さな生命保険会社の副社長である僕が参加していた。
都市部の若年層を対象にネットで生命保険を直接届けるライフネット生命のビジネスモデルは世界でも例がなく、辣腕経営者たちは大いに関心を示した。後から振り返って、この日は世界の保険業界にデビューを果たした記念すべき日となるだろうか。
――遡ること5年の2006年1月、ハーバード経営大学院に在籍していた29歳の僕は、初めて会った投資家からプロポーズを受けていた。
「君がベンチャーに挑戦するのだったら、僕は無条件で投資をする。一回きりしかない人生、自分にしかない個性とエッジを活かした生き方をしてみないか?」
僕と同じようにハーバードMBAを成績上位5%の「ベイカー・スカラー」として卒業した同級生の多くは、年収数千万円が約束される投資ファンドを就職先として選んだ。僕はというと、報酬の多寡よりも、漠然とではあるが、大勢の仲間と社会を変革する仕事に挑戦したいと考えていた。
投資家から投げかけられた挑発的な言葉は、僕の琴線に触れ、出会いから半年後の7月、気がつくと、彼に紹介された保険業界のベテランと新しいネット生命保険会社を立ち上げることになっていた。
パートナーである出口治明はこのとき58歳。日本生命の企画畑で国際展開と生命保険業界の変革をリードし、将来を嘱望された人物だったが、社長交代を機に上司だった副社長と共に要職を解かれ、ビル管理子会社の役員として余生を送っていた。投資家からの呼びかけは突然だったが、「新会社を設立して競争を仕掛けることこそが、自分を育ててくれた生命保険業界に対する最大の恩返し」と即答した。
業界の裏表を知り尽くした彼がベンチャー生保のパートナーに求めた条件は、ただ一つ。「自分とは正反対、つまり若くて生命保険のことは何も知らない人間」。30歳で保険業の経験はない僕は、それにぴったり当てはまった。