2014.05.30 書評

何気ない日常に潜む謎と巧緻な仕掛け、深い心理描写が秀逸の短編集

文: 山内 昌之,片山 杜秀,中村 彰彦

『小さな異邦人』 (連城三紀彦 著)

何気ない日常に潜む謎と巧緻な仕掛け、深い心理描写が秀逸の短編集

文藝春秋 1600円+税

中村 本書は、連城三紀彦さんの最後の短編集です。時効や交換殺人、誘拐などミステリー小説定番のテーマを扱いながら、一編一編に連城さん流の巧緻な仕掛けがほどこされ、また、男女の心の機微を深く描いた心理小説としても読むことができる。名手と呼ばれた連城さんの面目躍如といった作品が並んでいます。

 もともと、連城さんは、1978年、『幻影城』という探偵小説専門誌の新人賞を受賞してデビューしたんです。『幻影城』は、江戸川乱歩に代表される探偵小説というジャンルを復活させようと創刊されたものですが、連城さんや泡坂妻夫さんをはじめとして、奇想天外なトリックや謎解きの面白さなどを重視する作家を輩出しました。その後のミステリーブームなどに影響を与えた功績も大きい。

山内 同じ頃、一方では松本清張に代表される社会派推理小説が隆盛を極めていて、こちらは戦後日本人の欲望、市民社会の一般男女の愛憎などをリアルに小説に盛り込んだものでした。

片山 『幻影城』は戦前から戦後まもなくの探偵小説を再評価し、毎月のように当時の名作長編が一挙掲載されていましたね。私も乱歩好きの子どもでしたから、もっぱら旧作の方を読みふけっていました。

中村 実は、私は編集者時代、連城さんも担当だったんです。1984年、『恋文』で直木賞を受賞しましたが、ミステリー作家として活躍していた連城さんに、さかんに恋愛小説を書いて下さいと勧めたものです。

山内 この作品集でも、ひとつひとつは何気ない、身近なことから、事も無げに謎めいた物語に仕立てていく筆致が非凡ですね。たとえば、「無人駅」は、田舎の温泉町にやってきた派手な玄人女と、男の数時間にわたる駆け引きや心の動きを追った作品ですが、安宿や居酒屋といった、一見平凡な舞台立てにもかかわらず、女の不可解な行動に、読んでいる方も翻弄される。

片山 過剰なほどに「あと何時間」と迫る時効までの時間を書き込むことで、いつの間にか読者も切迫感を感じるようになるのは見事ですね。女が足首に男物の腕時計をはめているという不思議な描写も印象に残る。

中村 女性の心理描写には定評がありましたが、平凡な主婦が高校の同窓会で会った男に惹かれて、家庭を捨てようとする「冬薔薇」は、夢とも現実とも区別がつかない非常に幻想的な世界が展開し、最後には現実との整合性が取れるような仕掛けが待っている。

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