このところ話題になることが多い「ドローン」。これは、そもそも軍事用として開発されました。どんな経緯で誕生したのか。『無人暗殺機ドローンの誕生』は、それを詳らかにしてくれます。
米軍が偵察用として運用していたら、二〇〇一年九月の同時多発テロより前にアフガニスタンでオサマ・ビンラディンを発見。「ミサイルを搭載していれば暗殺できるのに」と切歯扼腕したことから、無人暗殺機へと発展しました。開発の過程では、既得権益が侵されると心配した空軍が導入に抵抗します。官僚組織はいずこも同じだという観点からも読める本です。
無人暗殺機でテロリストを暗殺し続けているアメリカですが、それでも世界は安定しません。むしろアメリカが世界を不安定化していると言っても過言ではありません。ブッシュ前大統領は、二つの外交路線を合体させることで意味不明な外交方針を採用。オバマ大統領は、二つの路線を足して二で割るという軟弱路線に陥り、いずれも失敗していると指摘するのは『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』です。
迷走を続ける大国アメリカ。これからどこに行こうとしているのか。来年は大統領選挙です。そこで有力候補の考えを知っておかねば。ヒラリー・クリントンの『困難な選択』は上下巻。国務長官時代の膨大な記録ですが、日本のことがほとんど出てきません。存在感の薄さに嘆きながら読んでいたら、日本訪問で美智子皇后陛下との再会を喜ぶシーンが登場。「私が大統領夫人だったころから彼女とのあいだに続いていた温かみのある個人的な関係」について語っています。
そのアメリカは、ウクライナ情勢をめぐってロシアとの対立が激化しています。クリミア半島にロシア軍はいないと平然とウソをついたプーチン大統領。いったいどんな人物なのか。『プーチン』は、改めて、この謎多き人物像に迫っています。
プーチンを、ロシアの資源戦略という視点で描いたのが、『コールダー・ウォー』です。米ロは冷戦(コールド・ウォー)を再び戦うのか。著者はこれを「コールダー・ウォー」と表現します。
東西冷戦といえば、真っ先に思い浮かべるのはキューバ危機。そのキューバとアメリカが国交正常化に動いているのですから、歴史に思い込みは禁物。『キューバ危機』は、現時点から、かの世界危機を振り返っています。キューバ危機は、ようやく歴史として見ることができるようになりました。
歴史といえば、今年は戦後七〇年であり、被爆七〇年です。アメリカによる原爆投下までに、どのようなことがあったのか。いま改めて調べ直しているのですが、この時期に合わせてでしょうか、『原子爆弾』が出版されました。原爆開発に向けての歴史を綿密に追った本です。
同じテーマを扱いながらも、スリリングな筆致なのが、『原爆を盗め!』でした。アメリカがマンハッタン計画で原爆開発を進める一方で、ソ連のスパイは、どのように秘密を盗んだのか。歴史ドキュメントというよりは推理小説のようなタッチの本で、文句なく面白く読めます。
原爆を考えるには、核エネルギーとしての原子力発電についても考えなくてはなりません。『原子・原子核・原子力』は、著者が勤務する駿台予備学校での特別講演が元になっています。著者によると、一〇年くらい前までは大学入試に原子・原子核の分野があったけれど、出題しなくてよくなったとたん、入試から姿を消し、いまの受験生は、その知識がないまま大学に入学しているそうです。驚くべきことです。そんな若者たちに基礎知識を知ってほしい。これが著者の願いです。
最後は『ジハーディストのベールをかぶった私』。フランス人ジャーナリストが、身分を隠して「イスラム国」幹部と接触した取材記。取材とは何かを考えさせます。
- 『無人暗殺機ドローンの誕生』 リチャード・ウィッテル著、赤根洋子訳 文藝春秋 2000円+税
- 『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』 ブレット・スティーブンズ著、藤原朝子訳 ダイヤモンド社 2400円+税
- 『困難な選択』(上、下) ヒラリー・ロダム・クリントン著、日本経済新聞社訳 日本経済新聞出版社 各2000円+税
- 『プーチン』 木村汎 藤原書店 5500円+税
- 『コールダー・ウォー』 マリン・カツサ著、渡辺惣樹訳 草思社 2200円+税
- 『キューバ危機』 ドン・マントン、デイヴィッド・A・ウェルチ著、田所昌幸、林晟一訳 中央公論新社 2300円+税
- 『原子爆弾』 ジム・バゴット著、青柳伸子訳 作品社 3800円+税
- 『原爆を盗め!』 スティーヴ・シャンキン著、梶山あゆみ訳 紀伊國屋書店 1900円+税
- 『原子・原子核・原子力』 山本義隆 岩波書店 2200円+税
- 『ジハーディストのベールをかぶった私』 アンナ・エレル著、本田沙世訳 日経BP社 1800円+税
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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