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最先端の知見からひもとく

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文:「週刊文春」編集部

『生命の星の条件を探る』 (阿部豊 著)

出典 : #週刊文春

実は宇宙には水はたくさん存在している。ではなぜ水が生命に必要か。大型の生命に陸地が必要な理由とは。そして生命にとってのマントル対流の重要性――。持続して生命が存在するための条件とは何か、最新の研究をもとに考察する。一般の読者向けにわかりやすく書き下ろされた、知的好奇心を刺激する1冊。 文藝春秋 1400円+税

 東京大学理学部で教える阿部豊さんの専門は、惑星システム物理学だ。

「鉱物学や物理学、地質学など、これまで別々に研究が進んできましたが、これらをまとめて地球をひとつのシステムとして捉えなおす、新しい試みの学問です」

 そのシステム的見方を紹介するのが、刊行された『生命の星の条件を探る』。宇宙のなかで、地球のように生命の存在できる条件とは何かを探求する本だ。水や陸地、酸素などが生命の持続にどのように関係しているのか丁寧に吟味している。

 本書を執筆するきっかけになったのは、2011年、科学専門誌に発表した論文だった。生命には水が必要だが、多すぎる水は災厄にもなりうるのだという。

「太陽は徐々に明るくなるので、約10億年後に地球は“暴走温室状態”になり、海はすべて蒸発して水蒸気になります。1000度を超える気温で岩石も溶け、生命は存在できなくなるでしょう。専門家には周知のはずですが、一般にはあまり知られていなかったようです」

 気の遠くなるような将来の話だが、逆に今の地球より水が少なければ、生命は3倍以上も長く存在し続けることができるという。

あべゆたか/東京大学大学院理学系研究科准教授。1982年東京大学理学部卒業。87年同大学院博士課程修了。主な研究対象は惑星の多様性の起源。2011年に『アストロバイオロジー』誌に発表した「陸惑星の生存限界」(妻・阿部彩子らとの共著)が世界的話題に。

「水が少なければ、熱されるとすぐに蒸発してなくなるというのが従来の暗黙の前提でしたが、地球の海の100分の1ぐらいの水量の方が、太陽が明るくなっても、より長く生物が存在できるという結果になりました」

 執筆には3年以上かかった。普段の授業、研究の合間を縫って。しかも難病ALSを患いつつだ。

「手が使えないので、娘に聞き取って入力をしてもらったりもしました。原稿の修正は、体にはりつけたセンサーで、パソコン画面のカーソルを操作して。機器の操作は最初こそ手間取りましたが、慣れると2倍以上早くできるようになりますよ」

 そこまでして執筆したのには個人的な動機もあった。

「実は、私がこの分野に興味を持つきっかけを作った母が病気になり、私の研究内容を、母に一般書の形で読んでもらおうという気持ちもありました。実際には準備しているうちに亡くなってしまったのですが」

 本書では数式をほとんど使わないで説明している。

「定量的な検討に数式は不可欠です。しかし数式から理由を読み取るのは慣れないと難しい。本書では定量性よりも言葉による理由の説明を試みました。この学問の面白さが、多くの人に伝わればと思っています」

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