東京大学理学部で教える阿部豊さんの専門は、惑星システム物理学だ。
「鉱物学や物理学、地質学など、これまで別々に研究が進んできましたが、これらをまとめて地球をひとつのシステムとして捉えなおす、新しい試みの学問です」
そのシステム的見方を紹介するのが、刊行された『生命の星の条件を探る』。宇宙のなかで、地球のように生命の存在できる条件とは何かを探求する本だ。水や陸地、酸素などが生命の持続にどのように関係しているのか丁寧に吟味している。
本書を執筆するきっかけになったのは、2011年、科学専門誌に発表した論文だった。生命には水が必要だが、多すぎる水は災厄にもなりうるのだという。
「太陽は徐々に明るくなるので、約10億年後に地球は“暴走温室状態”になり、海はすべて蒸発して水蒸気になります。1000度を超える気温で岩石も溶け、生命は存在できなくなるでしょう。専門家には周知のはずですが、一般にはあまり知られていなかったようです」
気の遠くなるような将来の話だが、逆に今の地球より水が少なければ、生命は3倍以上も長く存在し続けることができるという。
「水が少なければ、熱されるとすぐに蒸発してなくなるというのが従来の暗黙の前提でしたが、地球の海の100分の1ぐらいの水量の方が、太陽が明るくなっても、より長く生物が存在できるという結果になりました」
執筆には3年以上かかった。普段の授業、研究の合間を縫って。しかも難病ALSを患いつつだ。
「手が使えないので、娘に聞き取って入力をしてもらったりもしました。原稿の修正は、体にはりつけたセンサーで、パソコン画面のカーソルを操作して。機器の操作は最初こそ手間取りましたが、慣れると2倍以上早くできるようになりますよ」
そこまでして執筆したのには個人的な動機もあった。
「実は、私がこの分野に興味を持つきっかけを作った母が病気になり、私の研究内容を、母に一般書の形で読んでもらおうという気持ちもありました。実際には準備しているうちに亡くなってしまったのですが」
本書では数式をほとんど使わないで説明している。
「定量的な検討に数式は不可欠です。しかし数式から理由を読み取るのは慣れないと難しい。本書では定量性よりも言葉による理由の説明を試みました。この学問の面白さが、多くの人に伝わればと思っています」
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。