2013.07.15 書評

不妊治療大国ニッポンに問いかける

文: 与那原 恵

『卵子老化の真実』 (河合蘭 著)/『産みたいのに産めない 卵子老化の衝撃』 (NHK取材班 編著)

2012年6月に放映され、HPへのアクセスが100万件を突破するなど大きな話題を呼んだNHKスペシャルを完全書籍化。 文藝春秋 1470円(税込)

 いま日本では、六組に一組の夫婦が不妊の治療や検査を経験しているといわれる。日本は世界一の不妊治療大国だ。不妊の大きな理由にあげられるのが、三十代半ばから加速する「卵子の老化」という事実だ。

 三十代半ばといえば、昨今では「女子」と呼ばれる範疇である。しかし卵子の老化という〈目に見えない異変〉は、確実に進行している。平均寿命が延びてはいても、人間の身体そのものは太古とさほど変わってはいないのだ。

 昨年六月に放映されたNHK番組を書籍化したのが『産みたいのに産めない』である。卵子老化と不妊の現実と背景を多角的に検証し、大きな反響を呼んだ。不妊は個人的な問題ではなく、社会が向き合わねば解決できない課題だというメッセージが画期的だった。

 番組は、〈女性の社会進出が進む一方で、妊娠・出産にはタイムリミットがあることを全く考慮してこなかった、日本の社会の姿〉を浮き彫りにしたのだ。

 初産の平均年齢が三十歳を超える日本は、世界的規模で見ても、子どもを持とうと考え始める時期が遅い、と指摘される。しかし、妊娠・出産に最も適した世代のおおかたの女性は仕事を得て働く時期だ。この時期を逃すと、正規雇用は難しいのが実態だろう。

 そればかりか、「三百六十五日二十四時間死ぬまで働け」だの、グローバル化の名の下に低賃金・長時間労働も当然だとうそぶく企業経営者もいる。人をモノとして扱っているのであり、働く人間に結婚・出産・育児の時間など必要ないといわんばかりだ。少子化社会になるのは当然である。

かわいらん/1959年生まれ。日本で唯一の出産専門フリージャーナリスト。東京医科歯科大学等で非常勤講師も務める。 文春新書 893円(税込)

 そんな困難な社会にあっても子どもを産み育てたい、という人たちへの思いに沿ったのが『卵子老化の真実』だ。著者は日本で唯一の出産専門ジャーナリストであり、自身も高齢出産をふくめ、三人の子を産み育てた経験がある。

 医師、専門家などに徹底取材をし、当事者への広範なアンケート、きめ細かいインタビューを実施。男女双方の不妊症とその治療法、さらには妊娠、流産、高齢出産、高齢母の育児にいたるまで、いま不妊に悩む人たちが抱えるさまざまな疑問に丁寧に答えてゆく。

 専門知識を読者にわかりやすい言葉にし、ポイントも整理。具体的なデータも多数掲載した。不妊治療のリスクや、最新の研究成果も紹介する。高齢出産を今日の多様な生き方のありかたとしてとらえている。

〈卵子の老化に気づいた女性は、この、季節もよくわからなくなった世界で、生き物としてのまっとうな感覚に目が覚めるのです〉