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第162回芥川賞受賞 古川真人さん受賞のことば

第162回芥川賞受賞 古川真人さん受賞のことば

『背高泡立草』(古川 真人/集英社)


ジャンル : #小説

2020年2月20日、第162回芥川龍之介賞・直木三十五賞の贈呈式が、東京帝国ホテルにて行われました。「背高泡立草」(集英社)で芥川賞を受賞された古川真人さんの〈受賞のことば〉を紹介します。


受賞のことば

『背高泡立草』(古川 真人/集英社)

 ずっと横たわっていた。そうしているあいだに親しかったひとたちの姿が見えなくなった。どこに行ってしまったのだろう? おれは顔を上げて辺りを見回してみる。どこかに行ってしまったことに驚きはしなかった。ただ居ないにもかかわらず、行ってしまったひとたちの声が、いまも耳の奥底で聞こえていることを奇異に思っているのだった。声はまだ話をつづけている。いったい何を話しているのか。一語ずつに、言葉に挿し挟まれる笑い声に、しわぶきに耳をそばだてる。分かる言葉もあれば、分からないものもあった。また誰が、誰のことを言っているのか、これも分かったり分からなかったりした。どうにもじれったく、気づけば起き上がって声のする方へ歩いていけば、納屋に辿り着いていた。話していたのは草たちだった。

プロフィール

古川真人ふるかわ・まこと
1988年福岡県生まれ。2016年「縫わんばならん」でデビュー、同作で第156回芥川賞候補。第157、161回芥川賞でも候補となる。

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