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業界関係者騒然! 温泉旅館を「覗いた」禁断の書!? 『女将は見た』著者・山崎まゆみインタビュー

業界関係者騒然! 温泉旅館を「覗いた」禁断の書!? 『女将は見た』著者・山崎まゆみインタビュー

聞き手:Voicy 文藝春秋channel


ジャンル : #趣味・実用

温泉エッセイスト・山崎まゆみさん。最新刊『女将は見た』をもとに、温泉旅館の女将さんについて色々とお話しいただきました。

(放送はこちら)
https://voicy.jp/channel/1101/111697


『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(山崎 まゆみ)

村井(以下 m):こんにちは。文藝春秋の村井です。本日の文藝春秋channelはゲストの方にいらっしゃっていただいています。温泉エッセイストの山崎まゆみさんです。山崎さん、よろしくお願いします。

山崎(以下 y):よろしくお願いします。

m:山崎さんは先日、文春文庫より『女将は見た 温泉旅館の表と裏』という本を出版されました。今日はこの本を中心に、寒い季節でもありますので温泉の専門家でもある山崎さんにいろいろと温泉旅館のお話をお聞きしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

y:よろしくお願いします。

m:山崎さんはこれまで温泉のご本をたくさんお書きになっておられますけれども、女将というところに着目されたのが一つ新しいポイントかなと思いますが、温泉旅館の女将さんに注目しようというアイデアは結構前からお持ちだったんでしょうか。

y:はい。いつか女将という方々に注目した本を、と思いながらも、なかなか書けずにおりまして。10年温めて『女将は見た 温泉旅館の表と裏』の担当編集者に背中を押していただき、書くに至りました。

m:私も大変面白く読ませていただいたんですけれども、女将さんが考えてることだったり、普段どのようなお仕事をされているのかということは、案外泊まっている立場だとわからないものですよね。その辺りが見えたのが面白かったんですが、山崎さんはいろんな温泉に行かれる中で女将さんの働き方や動きというのにこれまで注目をされていたのですか。

y:働き方を注目というよりも、実は『女将は見た 温泉旅館の表と裏』のまえがきにも書かせていただいているのですが、2009年にVISIT JAPAN 大使としてパリに行った際、ご一緒した新潟県湯田上温泉「ホテル小柳」の女将の野澤奈央さんから、女将になった背景を聞いたんです。彼女は旅館の娘として生まれ育ち、結婚するには旦那さんに婿さんに入ってもらって旅館を継ぐ、家業を継いでいくというバックグラウンドを持っているんですけれども――彼女が味噌ラーメンを食べながら「ただ単に結婚するのではなくて、旦那になる人には宿の借金の連帯保証人として印鑑をついてもらうことが女将の一つの宿命」みたいなことを話して。女将さんって大変だなーって思ったのと、表情豊かに涙も交えてお話しした直後に「でもね、女将って女の将軍って書くんだよ」とニコッと笑われて、そこにいろんな物語がありそうだなーと興味を持ったのがきっかけでした。

m:今回この本にはたくさんの女将さんが出て来られますけれど、まず表紙に写っているすごく美人の女将さん、これは福島県の二本松にある温泉の……。

y:岳温泉「花かんざし」の女将の二瓶明子さんです。


m:この方に密着されて、女将の一日を取材されましたけれども、改めて女将さんの一日に密着取材をして、気づいたことってありましたか。

y:忙しいご職業だなって気づきました。なんかもう、座る間もないですし。忙しいのは体を動かしてる忙しさだけではなく、むしろ気働きのほうでして……。よくおもてなしという言葉ひとつで象徴されてしまいますが、それはそれはもう繊細なほどに、お客さんに対して心遣い、気遣い、心配り全てに全身全霊神経を集中させているという意味で、忙しいご職業だなと思いました。

m:随所に出てきますが、女将さんの力というか、経営者としての胆力がすごいんだなって感じましたね。

y:女将さんには、二瓶さんのように旅館の娘に生まれ育って家を継ぐという娘タイプの女将と、結婚されたご主人が宿の息子さんだったから嫁として入った女将と、2タイプがあるんです。どちらも胆力があって粘り強いですし、気働きも含め波乱万丈な毎日。日々事件がある中でも涼しい顔をして過ごしている感じがする方々です。

m:そうですよね。旅館というのはひとつの宿泊施設であり、また法人であり会社であり、そこの顔としての女将というのも描かれていたかなと思うんですけど、個人的に興味があったのは経営術みたいなところ。女将の知恵のようなものが面白いなと思っていて、その辺り、いかに経費を抑えつつしっかり利益を出して法人として回していかなきゃいけないかってことを考えてる人が多いんですね。

y:はい。実は女将って女将の数だけスタイルがあるんです。皆さんそれぞれ女将の捉え方も違っていて。密着した二瓶さんのように、おもてなしも出来て経営者のエキスパートでもある方もいます。また、この本の中でたくさん書いたエピソードの一つ目の秋田県角館にある夏瀬温泉「都わすれ」という、今予約が取れないような人気旅館で、全室に露天風呂が付いていてそこから綺麗な川と森が独り占めできるという旅館があるのですが、そこの女将のようにお金のことは気にせずに自分の好きなように理想の旅館を作られ、それをご子息である社長が経理面をすべて担当しているといった女将もいます。社長も出来る方もいれば、おもてなしや夢を追いかけるタイプもいます、様々なバリエーションに富んでいるのが女将でしょうかね(笑)。

m:読んでいて、温泉旅館の料理が時代によって変化するのもすごく面白いなと思って。板長さん、料理長さんに求められるスキルみたいなものも時代によって変わってきているんですね。

y:それに関してはやっぱり時代の変遷もありますよね。例えば高度経済成長期で団体旅行が主流だった頃は、100畳ぐらいの大広間に大人数がみっちり入って、お料理を楽しむというよりは宴席の場として旅館が使われていたんですけど、そういった時代はいち早く一斉にお料理を出さないといけない。そのスキルが最も重要視された時代もありましたが、今はむしろそれよりも、温泉でリラックス、ゆっくりすることに重きを置くようになって、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくと、ゆっくりと適宜出してくださるスタイルが主流となっているように思います。

m:あまり考えていなかったことがすごく分かりやすく書かれていて、様々な気付きがあった感じがしますけれども。ひとつ2020年のトピックスで言うと5月ですかね。上野にある「鷗外荘」という温泉旅館が閉まってしまったというニュース。これは結構話題にもなりましたが、そちらの最後の一日にも山崎さんは密着されていて。あそこには実は私も泊まったことがあるんですけれども、かなり有名な旅館でしたよね。

y:はい。

m:この本の中で女将の方がお話しされていますが、今回の閉めるタイミングもやっぱりすごく難しい判断の上でそういう決断をされたということなんですよね。

y:2020年5月31日で閉館はされましたが、実はクラウドファンディングを募っておられまして、集まった資金によって森鷗外の旧邸の保全や補修をされるそうです。閉館は閉館であったのですが、とても前向きな閉館だったように思います。

m:森鷗外さんのお家をある種守るための閉館であるとご説明をされていたんですよね。そこは近隣の住民の方や、以前からのファンもたくさんいらっしゃる場所ですから、クラウドファンディングには結構なお金が集まると思いますが、その辺りのお話は聞かれていますか。

y:私も毎日、中村みさ子女将のFacebookで今日はいくら集まったとか見ておりましたが、鷗外荘閉館の際は30以上のメディアで報道されたそうなんです。話題になった場所ですし、クラウドファンディングをやってるから応援してくださいといった報道も追随したりしていますので、そうした中で広がっていったような気がします。

m:一つの文化でもありますからね。ぜひ守っていただきたいと思います。

せっかく今回は山崎さんにvoicyに出ていただいているので、聴いてる方々に温泉について、どこが良いのかということもお聞きしたいなと思っています。まさに今、冬で温泉に入りたいシーズンという感じですが、せっかくなので本書で取り上げた温泉の中でおすすめのところを皆さんにご紹介いただきたいんですけれども……。

文春文庫
女将は見た 温泉旅館の表と裏
山崎まゆみ

定価:715円(税込)発売日:2020年12月08日

電子書籍
女将は見た 温泉旅館の表と裏
山崎まゆみ

発売日:2020年12月08日

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