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第1回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」 今最も届けたい恋愛小説を決める企画が始動! 記念すべき第一回の受賞作は?

第1回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」 今最も届けたい恋愛小説を決める企画が始動! 記念すべき第一回の受賞作は?

「オール讀物」編集部

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

『余命一年、男をかう』吉川トリコ

 ――幼い頃から節約・貯金が趣味の主人公・唯は、癌が判明し余命一年を宣告されます。そんな彼女は、病院の待合室で金に困っているホスト・瀬名と出会うと、初対面にもかかわらずポンと七十万を渡してしまう。そこから二人の奇妙な関係が始まるという作品です。

 加藤 まずタイトルのインパクトが強くて惹きつけられました。今の時代、多くの女性の心に刺さる小説だと思います。生きがいは節約だけ、自分の命なんてどうでもいいと思っていた唯が、瀬名との出会いを通じて少しずつ変化していくのですが、この不安定な時代のなかで、唯に共感する読者は多いと思います。瀬名と関係が近くなればなるほど、相手の家族と関わる煩わしさも出てくるなど、リアルな描写も多い。私が一番好きなのは二章で、それまで唯の目線で描かれていた物語が、瀬名の視点に変わるのですが、彼はこんなふうに感じていたんだ、と非常に楽しく読みました。

 花田 候補作のなかで最もリアリティのある作品でした。主人公が等身大で、野菜を冷凍して食費を節約したり、配信コンテンツを一人で楽しんでいそうな人物だなと共感しながら読みました。余命が一年、若いホストと付き合うという設定は一見非現実的なのですが、それでも唯に感情移入して読んでしまうのは、吉川さんの文章、人物描写の成せる業だと思います。今の社会で起きそうなこと、中年女性が感じていることをとても上手くエンタメ作品にされていると感じました。これは個人的な好みですが、著者のジェンダー観がしっかりされているので、男女のやりとりの部分も安心して読むことができました。

 山本 この小説のなかで大好きなのが、唯と、その同僚のみずほの関係性なんです。特に二九〇ページの場面に僕は感動して、「みずほにできることといえば、精も根も尽き果てて現実に帰ってきた唯を『おつとめご苦労さんでした』と迎え入れてやるぐらいである」という一文があるのですが、価値観も生き方も違う女性二人の、クールなんだけど情が通っている、シスターフッドとはまた違う関係性が素晴らしいと思いました。みずほの存在が、唯と瀬名を救っているのではないでしょうか。

 大塚 とても学びの多い作品でした。一番グサッと来たのが、瀬名の唯に対する「見た目とか雰囲気だけで勝手に人を判断して、勝手にカテゴライズする」という台詞です。思わず自分に言われているのではないかとドキッとしました。“命には限りがある”という大きなテーマが通底していて、そのなかで結婚や家族について考えさせられる作品でした。

 川俣 超合理的に生きてきて、恋愛も友達も別にいらないと思っていた唯が、病気になったことでパーッとお金を使う、しかもその相手が事情を抱えたホストで……という設定にグッときました。作品としては大好きなのですが、果たして「大人の恋愛」なのかと考えると、これは人との関わりの話であって、恋愛未満なのではないかと思いました。

 花田 私も「大人の恋愛」というよりは、家族の物語なのかなと思いました。これだけ個性の強い主人公なので、はちゃめちゃな選択をして、恋に突っ走って幸せになるような、もう少しぶっ飛んだラストだったら、また違う印象になったかもしれません。

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