あらすじ

「みんなとつながることができない」引っ込み思案の私立中学三年生・給前志音(きゅうぜん・しおん)。これまで勉強やスポーツ、そして人間関係さえも唯一の友達・青山瑠璃に頼り切って生きてきた。しかし離れて暮らしていた父との再会がきっかけで、志音はあえて友達がひとりもいない県立高校への進学を決意する。県立高校入学後、学校の屋上でドラム(エアで)の練習をしていた志音は吹奏楽部の部長・日向寺大志(ひゅうがじ・たいし)から誘われ、「何かが変わるかもしれない」という予感とともに吹奏楽部に入部する。いっぽうの大志は、実は過去の部活運営での失敗を抱え、その傷を乗り越えられないままでいた。志音の出現は「何か」を変えるのか? やがて二人と部員たちは吹奏楽部の東日本大会出場をめざして厳しい練習の日々を過ごすように。そして地区大会の日がやってきて――。

受賞の言葉 額賀 澪(著者近影)

 最終選考会の日。その日の昼食は立ち食いそば屋の盛りそばでした。まさか数時間後に、選考委員の先生方とシャンパンを飲んでいるとは、そば湯を飲んでいるときは想像もしておりませんでした。小説を書き始めて十五年。処女作を投稿したら賞を獲ってしまったのです、なんて言葉に憧れていた時期もあるのですが、私のワナビー生活は予想以上に泥臭く、格好悪いものでした。書いて、書いて。大学のゼミの先生や学生から駄目出しを貰い、また書く。投稿して、落選して、安い居酒屋で創作仲間に愚痴を吐いて、家に帰ってまた書く。それを繰り返しながら、ここまで来ることができました。おかわり自由のキャベツ盛りをむさぼりながら自分の小説に憤っていたのも、今思えば大切な時間だったと思います。受賞後、いろいろな人から「おめでとう」の言葉を貰います。応援してくださった方、祝ってくださった方に、感謝、感謝です。

プロフィール
1990年、茨城県行方郡麻生町(現・行方市)生まれ。10歳の時に初めて小説を書く。高校卒業後は小説家を目指し日大芸術学部文芸学科へ入学、創作やDTPを学ぶ。卒業後は広告代理店に勤務、制作の仕事をしながら小説の創作を続ける。2015年『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞。同年『屋上のウインドノーツ』(本作・『ウインドノーツ』を改題)で第22回松本清張賞を受賞。
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