薩摩・酒匂一派との因縁に決着をつけ、瀕死の重傷から目覚めた空也。彼の武者修行は、新たな展開を迎える!
『奔れ、空也 空也十番勝負(十)』

5月9日『奔れ、空也 空也十番勝負(十)』発売!

お知らせ

書籍紹介

空也の武者修行は、これにて完結!

父・磐音の故郷である豊後関前の地から、16歳で武者修行の旅に出た空也。薩摩での厳しい闘いの末に生じた酒匂一派との因縁。その後も長崎、上海、山城、近江などで死闘を繰り広げた修行の旅が、とうとう、完結を迎える!
おこんや磐音ら江戸の面々、そして、眉月、霧子の祈りは通じるのか。最後の勝負の行方は、果たして――!?

「空也十番勝負」完結によせて

佐伯泰英

 作者は還暦を迎えた年から読み物「居眠り磐音」シリーズ五十一巻と、さらに磐音の嫡子の物語「空也十番勝負」の連作と付き合ってきた。磐音と空也の物語が現か夢か区別つかぬほどのわが晩年だ。

 最終巻『奔れ、空也』脱稿に「空也十番勝負」完結と己に言い聞かせているが、

「終わった気がしないのはなぜだろうか」

 作者八十一歳に差し掛かり、なんとしても坂崎磐音の晩年を描きたい希求に苛まれているからだ。つまり青春時代の「空也十番勝負」は完結しても、即『磐音残日録』に手を出せないのは、磐音と空也の歳だ。磐音は五十代半ば、空也は弱冠二十一歳だ。むろんこの物語が人生五十年の江戸に忠実に照らして描写されるならば、

「磐音五十代半ばの長寿を保ち」

 と書いても不思議はないであろう。ちなみに幕末頃の江戸の平均寿命は男四十歳と少しとか、となると磐音は十分に後期高齢者だ。このままで物語の展開に不自然はない。歴史小説ならば当然手を入れる要はなく、「磐音五十代半ば」での物語進行だろう。

 だが、磐音と空也の剣術家親子の物語は、「文庫書下ろし時代小説」と称されるカテゴリーの読み物だ。

「人生五十年」に憧れた江戸時代ではない。

 令和の御代、「人生百年」うんぬんが喧伝される。となると読み物作家は自分の老いや体力の衰えに重ね合わせて、物語の主人公たちの行く末を描きたいと考えた。

 私にとってライフワークの「居眠り磐音」シリーズの『磐音残日録』は、作者の私が日々体験している体力衰退の感覚で磐音の残り少ない晩年を捉えたいのだ。そんなわけで江戸末期、後期高齢者の磐音を現在の私の「老い」感覚で描写していく道を選んだのだ。となると、しばらく磐音には「壮年期」の歳月が残されていることになる。そんな剣術家親子の葛藤や対立や融和の物語を描きたいと思ったのだ。

 文庫書下ろし時代小説作家の都合のいい話を読まされる読者諸氏にひたすらお詫びする。どうか、引き続き磐音と空也父子の「壮年若年篇」というべき物語としばらくお付き合いください。

 念押しします。

「空也十番勝負」は当初の予定どおり十巻の『奔れ、空也』にて完結致しました。


令和五年(二〇二三)三月 熱海にて

佐伯泰英

著者紹介

1942年、北九州市生まれ。 日本大学芸術学部映画学科卒。デビュー作『闘牛』をはじめ、滞在経験を活かしてスペインをテーマにした作品を発表。99年、時代小説に転向。「密命」シリーズを皮切りに次々と作品を発表して高い評価を受け、〈文庫書き下ろし 時代小説〉という新たなジャンルを確立する。2018年、菊池寛賞受賞。おもな著書に、「居眠り磐音」「空也十番勝負」「酔いどれ小籐次」「新・酔いどれ小籐次」「照降町四季」「密命」「吉原裏同心」「夏目影二郎始末旅」「鎌倉河岸捕物控」「交代寄合伊那衆異聞」「古着屋総兵衛影始末」「新・古着屋総兵衛」各シリーズなど多数。

シリーズ一覧

佐伯泰英 そのほかのシリーズはこちらから
(文庫・電子共通)

佐伯泰英そのほかのシリーズ(文庫・電子共通)はこちらの特設サイトから