2009.10.20 書評

ハルバースタム、最後にして最高の作品

文: 山田 侑平 (『ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争』訳者)

『ザ・コールデスト・ウインター 上』 (デイヴィッド・ハルバースタム 著/山田耕介 訳/山田侑平 訳)

  本書はヴェトナム戦争報道でピュリッツァー賞を受賞し、アメリカのヴェトナムとの関わり合いを描いた名著『ベスト&ブライテスト』で知られるデイヴィッド・ハルバースタムにとっては二十一冊目、そして最後の著作である。十年がかりでまとめた草稿を何か月もかけて手直しし、最後の手を入れて完成させた五日後、カリフォルニアでの自動車事故で不慮の死を遂げたからである。二〇〇七年四月、著者七十三歳のときだった。

『ロサンゼルス・タイムズ』のティム・ラッテンによると、ハルバースタムは事故の前日の電話で、本の原稿を四日前に出版社に渡したことを告げ、これが「わたしの生涯の最高の著作」である、と話したという。「これまで二十冊も本を書いていることを考えると、いつも超自然的なほど熱狂的なデイヴィッドにしても、いささか大胆ではないか、と思ったものの、何時間も本書のとりこになっていたあとで、かれがなぜそう感じたのか、その理由が容易に分かった」とラッテンはいう(『ロサンゼルス・タイムズ』二〇〇七年九月二十五日)。

  三万三千の米軍戦死者を出したにもかかわらず、朝鮮戦争は第二次世界大戦とヴェトナム戦争の間にあって「アメリカの忘れられた戦争」といわれ「歴史の孤児」になっている。ハルバースタムは本書によって「アメリカ現代史のブラックホール」ともいうべき事態を変えようとしたのである。

 

  朝鮮戦争は「誤算」の戦争だった。「双方の重要な決定のほとんどすべてが誤算にもとづいていた」とハルバースタムはいう。そもそもスターリンが北朝鮮に南への侵攻を許したのも、アメリカの介入はないと誤算したからだった。アメリカはソ連の国連安保理ボイコットのおかげで国連の旗の下に米軍を派遣することができた。誤算の最たるものは、マッカーサーが中国軍の参戦はないと確信して、北へ兵を進めたことだった。アメリカ政府が削りに削った軍事予算で十分な対応ができると思っていたのも誤算だった。北朝鮮軍や中国軍よりも手ごわい敵となった過酷な寒さについても誤算していた。マッカーサーからクリスマスには帰国できるといわれた米軍兵士には、夏服しか渡されていなかった。

ザ・コールデスト・ウインター 上
デイヴィッド・ハルバースタム・著 , 山田 耕介・訳 , 山田 侑平・訳

定価:1995円(税込) 発売日:2009年10月15日

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ザ・コールデスト・ウインター 下
デイヴィッド・ハルバースタム・著 , 山田 耕介・訳 , 山田 侑平・訳

定価:1995円(税込) 発売日:2009年10月15日

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