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- 2014.02.27
- 書評
魂に飢餓を抱えた男女の「建国神話」
文:佐々木 敦 (評論家・早稲田大学教授)
『ポリティコン 上下』 (桐野夏生 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
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『ポリティコン』は、桐野夏生の作品歴の中でも異色と言ってよい、突出した位置にある超大作であると同時に、きわめて桐野夏生らしい魅力的な複雑さ、歪(いびつ)さを抱え持った小説でもある。
主な舞台となるのは、大正時代、東北の僻地にユートピアの理想に燃えた芸術家たちが創立した「唯腕(いわん)村」。しかし村は今や高齢化が進み、経済的にも行き詰まりつつあった。村の後継者である青年・高浪(たかなみ・のちに羅我<らが>) 東一(といち)は、共同体と自らの未来に不安と焦燥を隠せない。そこに北田という男に連れられて、素性の知れない2人の女が村にやってくる。スオンという外国人の女と、マヤという美少女だった。東一はマヤに熱烈に恋するが、相手にされない。やがて名実ともに村の長となった東一は、悪辣なビジネスを含む手練手管を駆使して唯腕村を奇跡的に再生させる。東一はマヤと愛人契約を結ぶのだが……物語はやがて意想外のクライマックスを迎える。この小説は2部構成になっており、第1部は高浪東一の視点から、第2部はマヤ=真矢の立場から描かれる。
桐野夏生は、失敗したユートピアとしての村落共同体の(悲劇的な? それとも喜劇的な?)運命を、綿密な取材を踏まえつつも、そこから自由自在に離陸してみせるリアルで大胆不敵な想像力によって、鮮やかに描き出してゆく。言うまでもなく「唯腕村」には「日本」の戦後史そのものが重ね合わされている。それはこれに先立つ先品『東京島』で、やはり「東京」と「日本」が重ねられていたのと同じである。
この作家は、たとえば「歴史」や「国家」と呼ばれるようなマクロな対象を、けっしてマクロなままで捉えようとはしない。常にミクロな視座、すなわち登場人物個人個人の生きざまと、彼ら彼女らのエモーションの交錯を通して大きな何ものかを掴み出そうとする。
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