- 2010.05.20
- 書評
旅先のご飯は絶対にはずしたくない
文:さとなお (クリエーティブ・ディレクター/作家)
『朝昼晩ごはん全部うまい店! 極楽おいしい二泊三日』 (さとなお 著)
ジャンル :
#趣味・実用
旅の楽しさは食で決まる。
ま、人によっては「ホテルや旅館で決まるわ」とか「いや、そりゃ景色や出会った人で決まるだろう」とかおっしゃるかもしれない。でも、食べたものが、行った店が、その旅の思い出を何倍にもしてくれることに異論はないと思う。
ボクの中での最強のおいしい思い出は、北海道は知床への旅で出会ったズワイガニだ。
知床半島への小旅行の最中、羅臼で入った居酒屋で、ある漁師とたまたま知り合いになり痛飲したのだ。いや、正確に言うとベロベロになったのはボクだけで、その漁師はあんなに飲んだのにケロリとしていて「じゃ、いまから漁に行ってくるわ。そうだ、兄ちゃん、明日の朝7時、港で待ってろや。いいもん食わしてやるから」とか言うのである。
いまから漁~? もう深夜なんですけど~? とか、痛む頭で思いつつ、約束なので早朝6時に必死に起き、ガンガンする頭を抱えながら港に行った。幸いというかなんというか、時は2月の極寒時。冷凍庫で扇風機を回しているような羅臼港である。あっという間に酔いは覚め、二日酔いも吹っ飛んだ。
で、ひとりカタカタ歯を鳴らしながら待っていたら、遠くで汽笛が鳴った。
ポーーーーーーーー。
暗くてよく見えないが、かろうじて船の存在はわかる。船上でなにか動くものが見える。凍える睫毛(まつげ)を押し開いて目を凝らす。なにやら舳先(へさき)で人が動いている。だんだん近づいてきてわかった。くだんの漁師が手に赤い物を持って大きく手を振っているのである。声は届かないが、口の動きで何を言っているかわかる。
「カニ! カァ・ニィ! 捕ったぞー、カァ・ニィー!」