- 2012.10.12
- 書評
担当編集者が語るガリレオ短編の最高峰
文:別宮 ユリア (文藝局編集部)
『禁断の魔術 ガリレオ8』 (東野圭吾 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
東野さんから「スランプだ」という言葉を聞いたのは、2008年5月のことでした。東野さんといえば日本を代表する売れっ子作家。その人がスランプだなんて、「なんの冗談言ってるんですか」と即座に返して、笑って話を流しました。
その数日後、スランプの真相が分かりました。当時は『ガリレオの苦悩』を制作中だったのですが、短編4編で作っていたところ、東野さんは何としても5編にしたいと、こちらが依頼していないのに新たな1編を書いていて、それが思うようにいかず、体調がおかしくなるほど苦戦していたのです。それでも最後の1編を書き下ろし、『ガリレオの苦悩』として世に出たことは、読者の皆さんもご承知のとおりです。
それから4年。去年は長編(『真夏の方程式』)だったから、今度はガリレオの短編集を作りましょう、というこちらの悪魔の囁きに応じてくださった東野さんですが、以後いったい何度、呻吟を聞いたことでしょう。
いわく、「もう駄目、ネタはない」「若いときは一晩寝ればアイデアなんて湧いてきたけど、もう無理」「これ以上どんなに絞っても一滴も出ない、雑巾でいえばカラっカラ」……。
それでも心配はしていませんでした。担当編集者として15年仕事をご一緒してきた経験から、東野さんが最後は必ずやり遂げることを知っていたからです。これは確信ではなく、事実なのです。ですが──まさか、こんなことになるとは。想像の埒外の展開が待っていました。
「短編集、2冊出しませんか?」
そんなご提案を受けたのは、今年に入ってすぐのことでした。もともと短編にしては長い作品ばかりだったので、ずいぶん分厚い本になりますねぇ、とは話していたものの、2冊? どうやらアイデアを温めていた『猛射つ』が相当な長さになる感触だとか。それにしても、その時点で形が見えていた作品は5編。2冊に分けると逆に薄くなりすぎないか? 本数も足りなくないか? 即座にそんな疑問が頭を過ぎります。「あと3本、書きます。全部で8編、4編ずつで2冊。そして2冊目は雑誌に発表せず、書き下ろしにしましょう」
“ネタ切れ” “アイデア枯渇”が一転して、短編集2冊。おまけに1冊は書き下ろし。こんなことになるとは……。しかもその内容たるや、〈ガリレオ短編の最高峰〉という言葉を使うことに、わたしは何の躊躇いもありません。
どうか皆さん、その出来栄えをご自身で確めてください。
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