昨年の『シューマンの指』につづき、ミステリー作品を上梓します。なぜミステリーを書くのかとよく訊かれるのですが、僕自身ミステリーが大好きだから、そしてミステリーが現代文学において有力なジャンルであり技法だからですね。
ミステリーは、謎が提示されそれが解決されるという流れに沿って物語が進行します。ただ近代小説はみなそうした構造を持っているものなんです。例えばある人物が物語の冒頭で登場したとき、僕らはその人物についてなにも知らない。それが読み進めてその人物の行動や思考を追っていくうちに、謎だったものがどんどん明らかになっていく。そのなかでミステリーというジャンルが強調されるのは、ジャンルのもつ雰囲気や気分というものがあり、それが魅力的だからでしょう。
ミステリーは非常に幅広い作品を内包するジャンルです。松本清張以来の社会派ミステリーから、鮎川哲也の流れをくむ本格的な謎解きなどとても広範囲にわたっています。今回の作品は本格的な謎解きを柱に据えました。僕にとって初めて書いた本格ミステリーと言えると思います。
ただミステリーは、謎によって読者にページをめくらせるという大きな力を持つ一方、一度謎が解かれてしまうともう二度と読まれなくなってしまうというリスクを抱えています。僕は何度も読まれる作品がよい作品だと思っているので、このある種矛盾する条件を満たす作品を書けないかといつも思っています。
本書では主人公である桑潟幸一(クワコー)と彼が顧問をつとめる文芸部の女子部員たちとのやりとりを楽しんでいただきたいと思います。彼らのユーモアあふれる会話は、書いていてほんとうに楽しかった。僕はもともと笑える作品が好きなんです。どうも僕は難しい作品を書いているイメージがあるようですが、おもに笑って読んでいただける作品を書いていると思うんですよ(笑)。『「吾輩は猫である」殺人事件』や『新・地底旅行』を読んでくれた読者には、僕が笑いが大好きであることは伝わっていると思うんですけどね。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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