2012.12.11 書評

生まれ変わった老舗のグルメガイド

文: 覆面探偵+『東京いい店うまい店』編集部

『東京いい店うまい店 2013-14』 (文藝春秋 編)

編集部 飲食業界は「3・11」で最も苦しんだ業界のひとつと言っていいでしょうね。震災直後、飲食店は軒並みキャンセルに見舞われた。あれだけ大きな災害があったのですから、外食する気持ちが起きないのはわかりますが、世の中が立ち直ろうという時期に向っても、外食産業だけは「自粛」の風が吹き荒れました。

覆面探偵A こんなときだから派手に外出したり、散財したら、被災者に失礼じゃないか、というのが自粛する側の論理でしたが、内需が委縮したままなら、東北復興どころか、日本経済そのものが沈没してしまう。

覆面探偵B さらに農作物への不信が広がった。政府の数字に対する信頼感がなく、被災地周辺の農業、漁業は大変な打撃を受けた。飲食業に携わる人々も、どうしたらお客様が安心して食べてくれるのか。そのことばかりを考え続けた2年間だったなあ。

編集部 でも、その経験をバネにして、この1年のあいだに再び立ち上がった老舗もあるし、新しいアイデアを胸に秘めた飲食店も次々と誕生してきました。「いい店」は前回が「ベスト版」だったから、個別評価は4年ぶりになります。この4年で、飲食業界はずいぶん変わりましたか。

B 変わりましたね。客単価の高い店と安い店は元気があるけれど、中間の価格帯の店がきびしいという傾向はその当時からあったけど、ますます拍車がかかっている。

A 一部の値段の高い店への客の集中ぶりには、目に余るものがある。寿司Mなんかは半年先までいっぱいだし、フレンチのKも予約受付時間が決まっているから電話しても話し中でまったくかからない。

B やはりネットグルメの隆盛と関係があるよね。「ネットの点数が高いとみんな行く→みんながいい点数だから迎合していい点をつける→さらに高くなり、神格化される→そこにばかり集中する」という構図だと思うんだけど、彼らが本当に自分の味覚で判断しているかというと……。

A 食べ物に絶対評価はないから、どれが正しいとは言わないけれど、ここ数年、味が濃い料理が評価されるようになった。脂が乗って、味がしっかりしていると、わかりやすい旨さになるでしょう。そういう味が高評価になっている気がするね、ネットサイトは。

編集部 価格の安い店はマーケティング勝負になっていますね。ビストロなら、どこもカウンター中心でコース5000円程度、ワインも5000円台を中心にして、魚なんかいらないから肉をがっつり食べさせる。やはり、味が濃い料理を多くすると流行りますね。

A 典型的なのが「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」ですよね。ともに立ち喰いなんですが、こってりした料理が1000円以下で食べられることで大ブレイクした。運営会社の戦略は見事ですが、あれをイタリアンやフレンチと思われちゃたまらないけど。

B 日本料理は、海外から再評価を受けてるよね。寿司屋でいえば、カウンターが自分たち以外、全員外国人だったという話も聞いてるし。銀座のAは年内で店を閉じてロンドンに移ると聞くし、Yは日本の店は弟子にまかせて、本人は香港で店を出した。シンガポールやソウルに支店を出したところもある。

編集部 天ぷらでも、客の8割は外国人という話を聞きました。でも、中国人比率は一時よりは減ったようです。

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東京いい店うまい店 2013-14

文藝春秋・編

定価:1890円(税込) 発売日:2012年11月29日

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