物語は昭和63年、広島県呉原東署の捜査二課の暴力団係に配属された日岡秀一が、直属の上司の大上章吾と出会う場面から動き出す。
「二課のけじめはヤクザと同じよ」
と、新人にいきなり持論をぶった大上は、県警内で凄腕のマル暴刑事として有名な人物。華々しい実績を挙げる一方で、常に裏社会との癒着が噂されるいわくつきの警官だ。そして日岡に命じられたのは、行方不明となっている暴力団系列の金融会社社員の行方を追うこと――捜査がはじまるや、暴力団同士の血で血を洗う抗争がたちまち繰り広げられていく。
「私は初恋がブルース・リーだったくらいで、昔から『平凡』や『明星』に出てくるようなアイドルにはまったく興味がありませんでした(笑)。『麻雀放浪記』にも夢中になりましたし、作家デビューした前後に『仁義なき戦い』を観て、またこれもはまりました。『県警対組織暴力』や『北陸代理戦争』などもそうですが、女が入ろうとしても入れない世界だからこそ格好いいというか、逆に憧れたんですね」
世間から見れば日陰者であっても、彼らには彼らなりの筋の通し方がある。本書ではこうした世界観が、どっぷりと描かれていく。
「私の中ではこれまでと違うものを書いたという意識はないんです。十人いれば十人の価値観があります。日岡には日岡の、大上には大上の、極道には極道のルールというものを、登場人物のそれぞれに持たせようというのはありましたが……」
大藪春彦賞を受賞した『検事の本懐』をはじめ、自らの代表作・佐方貞人シリーズの主人公が求めるのが〈表の正義〉であるとしたら、大上が体現しているのは〈裏の正義〉だという。
時には違法行為も辞さない強引な捜査に、日岡は戸惑いを覚えながらも喰らいついていく。幾重にも絡み合う暴力団同士の関係は、「著者の私でも説明を間違える(笑)」ほど複雑だが、それを隅々まで知り尽くした大上ゆえの秘策は、果たしてどんな結末を迎えるのか?
「あえて〈昭和〉を背景にしたのは、暴力団対策法以前でまだ任侠のルールが残っている世界を舞台にしたかったからです。私自身はもともと検事でも裁判官でも、作品に書いた世界に詳しかったわけではなく、ひとつひとつを調べて書き上げています。今回もそれは同じで、私がようやく理解が出来たものを形にしました。どんな読者の方にも、悪徳警官には悪徳警官なりの想いと哀しみがあることを、きっと分かってもらえると思います」
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『孤狼の血』 (柚月裕子 著) KADOKAWA
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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