誉田哲也といえば、『ジウ』(中公文庫)や『ストロベリーナイト』(光文社文庫)などの警察小説の作家と思われているだろう。作家になる前は格闘技ライターでもあったので、事件捜査の面白さもさることながら、危機に際しての刑事たちの格闘技がすさまじく、読んでいて息詰まる昂奮をおぼえる。さまざまな技を繰り出しての戦いが、そのまま刑事たちの精神と肉体の相剋につながり、強大な敵との戦いがいっそう迫力をまし、ときに悲壮美をおびる。
そういう警察小説の若き名手としての顔を存分に見せる一方で、誉田哲也は青春スポーツ小説の作家としても存在感を示している。いうまでもなく成海璃子、北乃きい主演で映画化された『武士道シックスティーン』(文春文庫)、続篇の『武士道セブンティーン』(同)『武士道エイティーン』(文藝春秋)である。いくらなんでも剣道は地味だし、そこに何の興趣があるのかと思ったものだが、いやはやこれが最高。語り手の視点を変え、さらに場所もかえて、そこに成長小説としての側面ももたせて、とにかくわくわくするほど愉しい。
そんな抜群のストーリーテラーぶりを示す誉田哲也の新作が『レイジ』である。いったい今度は何かと思ったら、なんと音楽小説だ。音楽小説というとクラシック音楽を連想してしまうが、正確にはバンド小説だ。中学生でバンドを組んでいた者たちの20年間の人生を描いた物語である。
中学3年の文化祭ではじめてワタルと礼二たちがステージにたった。ドラムは川嶋均、ギターは谷垣友哉、ベースはリーダーの春日航で、ボーカルは三田村礼二。ハードロックのコピーバンドであったが、生徒たちの受けもよく、ワタルはロックスターへの確かな一歩を踏み出したと思ったが、2カ月後、礼二が突然バンドを抜ける。ワタルは礼二の真意がわからなかった。
礼二は、ほかのメンバーがコピーを続けることに嫌気がさしたのだ。自分たちが作った曲を演るのがロックなのではないかと思ったからである。礼二は高校に入ってから、作曲の道を突き進む。多重録音をしながらどのようにすればインパクトのあるメロディが作れるのかを考えていく。
いっぽうのワタルは、ボーカルの礼二に抜けられて困っていた。友哉は後輩を誘って別のコピーバンドを作り、均はバイク免許取得のため教習所に通い始め、徐々にバンド活動から遠ざかっていた。そんなときに、友人の紹介で松下梨央という美少女が加わり、なんとかバンドの形になる。
ワタルはひそかに梨央に好意を寄せるが、ある日、校舎の屋上で梨央と礼二が親しげに肩を寄せ合っているのを見て、ショックを受ける。どんな関係なのだ?
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