戦争中に出征した場所に留まり、終戦後も帰らなかった人たちのことを知りたいと思い、ここ最近私はそうしたテーマの本をぽつぽつと読んでいた。そういう人たちは「残留日本兵」という言葉でひと括りにされている。けれども読めば読むほど、私の知りたいことから離れていってしまう印象を抱く。それがなぜなのかも、しかしわからない。写真家の橋口譲二さんが残留日本兵にかんする本を出版されると聞いて、今までのその印象が拭われるのではないかと私は予感した。結果的に、その予感はただしかった。というよりも、予想していた以上の重い手応えに正直、私は戸惑っている。
正確にいえば、この一冊は残留日本兵にかんする本ではない。さまざまな人が登場する。共通項は、戦前から戦後を生き抜き、そのいずれかの時期に(日本統治下の国も含む)異国に渡り、今なお、その場で暮らしている人たち。けれども、そんな括りは意味をなさない。ここに登場する十人は、いや、登場せずとも、同じ時代を生き抜いてきた多くの人たちを一括りにする言葉はない。十人の声を聞いていると、そう強く思い知らされる。
十人は、それぞれの人生を語る。どこで生まれ育ち、何歳のときに戦争がはじまり、だれと結婚しどんな仕事をし、今に至るのか。そして、「なぜ」その場所で生きることになったのか。私がもっとも知りたいのはその「なぜ」だし、作者が取材をはじめたころは、そのことをこそ、知りたかったのではないか。しかし、非常に奇妙なことに、その答えだけがここにはない。彼らは語ってはいる。それはまさに人生の岐路である。ところがその岐路でなぜその選択をしたのかが、読んでいてもわからない。作者もまた、ひとりひとりの声に全神経を集中しながら、幾度も書く、「分からない」と。「そんなセンチメンタルなことでもなく、ただ帰りそびれただけかもしれない。分からない」、「でも僕の考え過ぎかもしれない。分からない」。私は最初、これは、他人の人生を勝手に断じることを躊躇する、作者の謙遜と配慮の言葉なのだと思っていた。しかし読み進み、幾度目かの「分からない」に出合ったとき、ふいにあることに気づいた。
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