──東京・江古田にあるレトロな下宿。一階にはいわくありげな大家の綿貫さんと内縁の夫の晴雨(せう)さん、二階に三人の下宿人がいて皆がままならない恋をしている……と、『真綿荘の住人たち』はどこか懐かしい雰囲気が漂う作品ですね。
島本 ちょうど私の子供の頃は下宿や全寮制といった設定の本や漫画がたくさんあって大好きで、いつか自分でも書いてみたい憧れのシチュエーションだったんです。今その設定が成り立つ町はどこかと考えたとき、学生が多くて安いアパートや商店街もあって、色々なものが混ざりつつ昔ながらの風景が残る町という印象の江古田が浮かびました。学生時代に練馬のほうでバイトしていたので土地勘もありましたし。
──町の情景や木造二階建ての真綿荘の細部の描写など、まるで読者自身が過去に見たことのある場所のことを読むようなノスタルジーとリアリティがあります。
島本 実は間取りなどはざっくりとしか考えずに書き始めてしまったので、後で調整を迫られた箇所もあります(笑)。ただ、どこか一室は、住人全員が顔を合わせてそこで関係性が変化したり事件が起きたりという場所が欲しいとは考えていたので、一階に大きな食堂を作りました。皆で鍋を囲むすき焼きや大家さん一人で煮詰めていくハヤシライスなど、献立も状況に合わせて考えたり、作っている間の緊張感や住人同士の距離感も含めて食事も大切なアイテムのひとつです。
──この作品は、住人それぞれを主人公とする一話ずつの連作短編であり、かつ全編を通して大家の綿貫さんと晴雨さんの関係が浮かび上がってくる長編でもあります。
島本 こういう構成なので、書き始める前にスタートからラストまでの流れは割としっかり決めていました。今回は、これまで私の書いた小説にあった要素を全部少しずつ取り込んでみようという意欲が高まっていたので、登場人物を作る際にも意識してキャラクターをばらすようにしました。
──複雑な家族構成や年上の男性との恋愛、コンプレックスなど集大成ともいえる要素が随所にちりばめられています。
島本 家族構成を意識せずに書いたことはほとんどないんじゃないかというほど、私の小説にとって家族構成は大事です。本人が意識していなくても、人格形成や性格、癖、生活習慣とかだいたいが家族や家庭環境からきていて、その人の鏡なので、そこを書きたいんです。
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