- 2014.03.26
- 書評
女性が性を軽やかに楽しむために
文:宋 美玄 (産婦人科医・性科学者)
『セックスペディア 平成女子性欲事典』 (三浦ゆえ+平成女子性欲研究会 著)
ジャンル :
#趣味・実用
ここ日本では、性について“学ぶ”機会がありません。
保健体育の授業で月経や精通、妊娠、避妊、性感染症についてごく基本的なことは習いますが、それを知ったところで、成長して好きな異性と出会ったときにセックスができるわけではありません。もちろん、セックスを学校で教育することの善し悪しもあるでしょうが、なにしろ現状では、本来なら誰のなかにも必ずあるはずの、健全な性欲の芽が早いうちに摘み取られてしまいます。そこから地続きにある妊娠や出産に続く道が閉ざされかねないとなれば、これは由々しきことです。
この問題は、特に女性にとってより深刻です。たとえば、経産婦や年配の女性たちが婦人科で、「もうこの人に性欲はない」「よって、性生活もない」と勝手に決めつけられることが少なくありません。医療の現場ですら、こうなのです。これを海外の医療従事者たちに話すと、たいへん驚かれ、そして理解に苦しまれます。女性が性欲を肯定し、性を楽しむのに、この国が窮屈すぎるのは間違いないようです。
その風向きが変わりつつある――本書を手にした瞬間、そう感じました。性欲を感じ、あの手この手でそれを満たすことは、男性にとっては日常的な営みでも、女性にとってはタブーでした。しかし、その境界線をヒラリと超えていく、現代女性たちの軽やかな姿が本書からは見てとれます。性欲を花開かせ、昇華させるためのエネルギー源=セックスファンタジーを、女性が自らの手で作り出しはじめたというのは、とても明るいニュースです。
女性の性欲はこれまで、男性からのお仕着せでしかありませんでした。女性にとっても健全な行為であるマスターベーションも、男性の“オカズ”になるぶんには許されていましたが、いざ恋人や妻がそれをしているとなると、怯む男性がほとんどです。女性が思うままにセックスファンタジーを広げ、自分ひとりで性欲を満たせるとなると、男性不在でも女性の快楽が成り立つことになりますから。さらに、ファンタジーの中では、女性が都合のいいように理想の男性像、その彼とのセックスを創出します。これは、男性にとっては不都合な真実です。自分たちは長らくそうしてきたにも拘わらず……。