拙作『夏光』が文庫化される予定だということは、今年、文春文庫の方からいただいた年賀状で知りました。
単行本のほうはあまり売れなかったはずなので、文庫にしていただけるかどうか、微妙なところだと思っていましたから、それはもう嬉しかったです。
単行本発売から三年。当時を振り返り、あれから三年も経ったのか、と感慨を深くしました。三年の年月で、私を取り巻く環境は大きく変わりました。一番の変化は、雇用止めで失職したことでしょうか……。次の勤め先が決まらず、今は小説を書くことが生活の中心にありますが、当時、特に表題作である「夏光」執筆時は、勤めをこなして帰宅してから、あるいは出かける予定の無い休日、限られた時間を惜しむように、パソコンに向かっていました。
日の目を見るかどうか分からない小説を書き、投稿しては落選する。なんでもすぐ投げ出しがちの私が、小説だけは書き続けた理由は、自分でも不明です。ただ、ちょっと意地はあったと思います。負けっぱなしで退くわけにはいかない、というような。
まあ、ある意味お馬鹿さんです。
文庫にしていただくにあたり、改めてゲラとなった自分のデビュー作を読み返してみました。
そして、落ち込みました。
「私って、こういうふうに書けていたんだなあ」と。
三年前、なんとか本を出していただくために、手探りながら躍起になっていた自分が目の前に蘇(よみがえ)り、その若さと(いや、当時も大して若くはなかったのですが)情熱にうなだれました。
特に「夏光」などはそうでした。
これはオール讀物新人賞をいただいた短篇です。つまり、素人時代に書いた小説なのです。今も「プロの小説家です」と自称するのは、ちょっとおこがましくて、ためらうものがあるのですが、とにかく「夏光」を書いたころは、紛(まぎ)れもなく素人でした。
別に投稿しなくても誰に迷惑がかかるわけでもなく、怒られもしない。応募についての締切日はありますが、それは「もしも出すのならこの日までにね」というもので、「この日に間に合うように出せー!」と強制されるのではありません。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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