- 2015.04.05
- インタビュー・対談
本の愉しみ――読む、書く、作る
『アンブラッセ』刊行記念・ロングインタビュー
烏兎沼 佳代
『アンブラッセ』 (阿刀田高 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――今年でデビューなさって51年。新刊の『アンブラッセ』まで数えると、ご著書はぜんぶで150冊以上になるでしょうか。
そうですね。文庫本も含めると、その約2倍はあると思います。
――ショートショートも厖大な数ですね。
短編も含めて800作と思っていたのですが、920作以上あるようです。2年ほど前に母校の早稲田大学から芸術功労者として表彰していただいた時、記念展示会の担当者が数えてくれました。もうすぐ1000作だけど、そこまでたどり着くのはたいへんです(笑)。
――『アンブラッセ』は、季刊「嗜み」(制作・文藝春秋企画出版部/発売・文藝春秋)で連載なさっていた短編を中心に、10作収載されていますが、どれを読んでも面白い作品ぞろいです。1作が400字にして50~60枚でしょうか。ご執筆はどんなペースですか?
1日に10枚書ければにっこりですね。7枚から10枚書いて、1編を5日で書いています。担当編集者に聞けばみんな証人になってくれると思うのですが、私はとにかく締切を守るんです。気が小さいものですから、隣りの部屋に編集者を待たせておいて、原稿を書かずに酒をのむなんてできない(笑)。それと私は、編集者の告げる締切日を信じます。
――それは、すごい! いや、失礼!
いやいや、さばを読んでいることは、もちろん知っていますよ。「15日締切」と言われれば(20日、いや、25日まではだいじょうぶだな)とわかっていても、15日までに渡す。本当の締切を知ったからといって、それが一生で最後の仕事ならギリギリまでねばるけれど、言われたとおりの締切を信じて守って次の仕事に移ったほうがいいんです。
(さあて、何を書こうかな)と本気で考えはじめるのは1カ月ほど前ですね。
締切の5日前――いよいよ書きはじめるべき期日が迫ってくる……でも、いいアイデアというのは、なかなか出てこないものです。毎回、雑巾を絞って水を出しているような状態で、このごろは絞れども絞れどもアイデアの水滴が一滴も落ちてこない、そんな感じです。
直木賞をいただく前からつけているアイデア帳があって、使った事柄にはバツをつけているのですが、開くとずらっとバツばかりです。でも不思議なもので、そんな状態でも、アイデアのかけらのようなものは何かしらあるんですね。書き始めても、苦労するだけでろくな作品にはならないと予想がつく程度のアイデア……たとえば井上ひさしさんだったら絶対に書き出さないようなものでも、書き始めないと「明日こそは」がつづいてどんどんのびるだけですから、期日がくるとどうあろうと筆をとります。まれには(なんとかなったかな)という仕上がりもありますが、たいがいは予想通り(書いてはみたものの……)という作品も無きにしも非ず。でも、アイデアが出ないときには、ねばった時間で名案が浮かんだという経験は皆無に近いですし、予定通りに書き出せばまだ時間に余裕があるから、ちょっとでもいい仕上がりになる。これでずっと、40年以上書いてきました。
本音を申し上げると(ああ、今回はいい作品になったな)と満足できた作品は、20作あるかどうかですね。
――その数は、とても信じられません。
編集者は、はじめのうちは(いい作品がいただきたい)と思っているんです。でも、いよいよ締切となると、作品の良し悪しよりも、とにかく原稿を社に持って帰りたい、という顔つきになってくる(笑)。もちろん、いい作品にするために資料をそろえてくれたり、いろんな協力も惜しみなくやってくださるんですよ。でも、白い紙をもって帰るわけにいかないでしょう。こちらも、(古い書きかけの原稿ないかな)と引き出しなんかを開けたりして、必死です。時々発見しても、所詮は駄目だから書きかけになった原稿なので、やっぱり駄目でがっかりする……そんなこんなの繰り返しで書き続けてきました。
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