2010.10.20 書評

ネットのなかに新たな“世論形成”の場を

文: 佐々木 俊尚 (ITジャーナリスト)

『決闘 ネット「光の道」革命――孫 正義vs.佐々木俊尚』 (孫正義、佐々木俊尚 著)

  世論はこれまで、新聞やテレビなどのマスメディアによって形成されてきた。メディア論的に言えば、マスメディアの世論形成機能には次のようなものがあると言われている。

(1)一次情報を取材し、記事化して読者に伝える情報伝達機能

(2)さまざまな一次情報から読者に必要な情報だけを取捨選択する情報集約機能

(3)その情報に対する評価と意味づけを行い、世論を喚起するアジェンダ(議題)設定機能

(4)独自の調査報道による権力監視機能

  従来は新聞やテレビがこれらの機能のすべてを包含し、そこで世論を形成して政治に接続させてきた。それが「第四の権力」とも呼ばれる大きなパワーとなってきたわけだ。

  これは昨年の政権交代からその後の鳩山首相辞職、小沢一郎強制起訴にいたるまでの一連の政治の流れの中でもいかんなく発揮され、政治も国民もマスメディアに翻弄(ほんろう)されるように、新聞・テレビのつくる「世論」に引きずり回されてきたといっていい。

  しかしそうしたメディア世論の本質は、実に誘導質問的な世論調査と、きわめて情緒的な物語づくりによってメディア自身が生み出したもので、これが本当に日本人の世論そのものであるのかどうかはかなり疑問でもあった。

  そもそも日本のメディアには、政策論争がほとんど存在しない。政局と言われるような、「誰と誰がどこで会ってこんな密談をした」とか、「あの会社の社長がいよいよ退いて、こんどはあの専務が就任するらしい」とか、政治だけでなく経済分野も社会分野もそんな話ばかりで埋めつくされている。

  そういう政局記事を私が批判すると、テレビ局などからは必ず「政策の話なんかを大まじめに取り上げたって、視聴者は見ないんですよ」というような反発が返ってくる。実に国民をバカにした話だと思う。

  そんな中で、インターネットというオータナティブな言論空間が生まれてきた。この世界は実に荒々しく、ノイズまみれで、だから古いメディアや老知識人からはいつも「誹謗(ひぼう)中傷が多い」「便所の落書きだ」と非難されているのだけれども、しかしいっぽうでこれが劣化したマスメディアに代わる新たな言論空間を生み出しつつあることも、ネットの世界で活動している人たちは実感として認識し始めている。政治や経済の専門家が新聞には太刀打(たちう)ちできない高度な内容をブログで発信していることはもう珍しいことではない。ツイッターでは日々、さまざまな議論がリアルタイムに行われていて、その場には政治家や企業経営者、ジャーナリストなどもごく普通に参加している。

決闘 ネット「光の道」革命
孫 正義・著 , 佐々木 俊尚・著

定価:819円(税込) 発売日:2010年10月20日

詳しい内容はこちらこの本の特設サイト