インタビュー・対談

伊東潤「歴史の面白さを伝えたい」

本屋が選ぶ時代小説大賞2011 受賞作
『黒南風の海』(PHP研究所)

聞き手: 「オール讀物」編集部
伊東潤「歴史の面白さを伝えたい」

――今年度、本屋がお勧めしたい時代小説のナンバーワンに『黒南風(くろはえ)の海』が選ばれました。

伊東 連絡をもらった時には、電話を置いた後、ゴールを決めたサッカー選手のように、ガッツポーズをして家の中を走り回りました(笑)。時代小説がお好きなヴェテラン書店員の方々に、自分の作品を認めて頂けたことは、何より名誉です。私の場合、デビューも文学賞がきっかけではなかったので、初の栄冠であり、喜びもひとしおです。

――本格的歴史時代小説の書き手として、皆さまから期待を寄せられましたが、史実を骨太に検証していく姿勢は、どのようにして確立されたものなのでしょうか。

伊東 作品を読んだ方からは、きっと作者は歴史オタクに違いない、と思われているようですね(笑)。でも、実際はまったく違うんです。若い頃から、小説家になりたいと思ったこともありませんし、人一倍、歴史が好きだったわけでもありません。確かに、司馬遼太郎さんや吉村昭さん、松本清張さんの作品は好きで、ずいぶん読んでいましたけれど、大学卒業後はIT関係の企業に進み、読書といえばビジネス関係の実用書ばかりになりました。

 突然、小説を書き出したのは、2002年5月1日でした。こんな話をすると笑われてしまいますが、家族でドライブをしていて、山中城址(静岡県)で休憩をしたんです。ここは小田原城の支城で、豊臣秀吉の北条攻めによって落城しました。その時に、この城を縄張りした間宮康俊も討ち死にしたのですが、彼の遺した遺構の美しさに魅せられました。それを見ているうちに「自分の作品の中で死ねるアーティストは築城家だけだ」という台詞が頭の中に浮かび、この感動を書き残したいという衝動に駆られました。その日からワープロに向かい、出来あがったのが、マイナー時代の2004年に出版した、『戦国関東血風録外伝 悲雲山中城』です。

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