多くの人に愛された盲導犬の一生を描いてベストセラーとなった『盲導犬クイールの一生』が、いよいよこの七月に文庫となってお目見えします。四年前に単行本が刊行された時は、直後こそ、それほど注目を集めませんでしたが、「感動した! なんとしてもこの本を売りたい!」という書店さんの口コミが広がって、部数をぐんぐんのばしていきました。そしてあれよあれよという間に五十万部を突破。ついにTVドラマや映画化もされ、今では盲導犬を見ると「クイールだ!」と子供たちが言うほど、その名は浸透しています。
今回新しく文庫にするにあたり、文庫編集部では単行本未収録の写真を大幅に増やすことにしました。カメラマンの秋元さんが撮りためていたクイールの膨大な写真を前に、デザイナーを含め文庫部員たちが、あれがいい、これがいいと喧々諤々(けんけんがくがく)。そして選び抜かれた二十七枚の写真。やんちゃで可愛い仔犬時代の秘蔵ショットや、クイールがパートナーの渡辺さんとバスに乗っている場面など、クイールファンにはたまらない写真ばかりです。
文庫版のもうひとつの魅力は、クイールを立派な盲導犬に育てた訓練士の多和田さんが、特別に解説を書いていること。多和田さんは、どんな犬でも賢くさせてしまうことから「魔術師」ともいわれ、訓練士たちから絶大な信頼を寄せられている方です。単行本を作るときにクイールのエピソードをなかなか思い出せず、奥さんの智子さんに協力してもらったことなど、当時の意外なウラバナシをたっぷりと披露してくれています。
さて、文庫が発売されるのは、ちょうど子供たちが夏休みに入る前。ルビが多くて読みやすいので、ぜひ親子で読んで頂きたい一冊です。
今回、単行本を読んでクイールの熱烈なファンになったという伊藤まさこさんに、できたばかりの文庫本を読んでもらいました。伊藤さんは料理・雑貨スタイリストとして大変な人気ですが、大の犬好きでもあります。子供の頃、大学の獣医科で犬を分けてもらえるといううわさを聞きつけて押しかけて行ったほど。「クイール」は親子で読みたい本のナンバーワンとおっしゃってくださいました。
「娘の胡春(こはる)はちょうど小学校に入学したばかり。毎晩、寝る前にベッドの中で本を娘に読んであげるのが習慣になっています。クイールを読んであげたらとても喜んで、興味しんしんに本をのぞきこんでいました。最初は写真を見て、犬ってかわいいね、と盛んに言っていたのですが、読みすすめていくうちに、盲導犬を育てるってこんなにも大変なんだ、と強く感じたようです。私自身、子供の頃に十五年ほど秋田犬を飼った経験があるので、夜鳴きで大変だったりと生き物を飼うことの大変さを分かったつもりになっていたのですが、盲導犬を育てて訓練するのにこんなにも手がかかるということにとても驚きました」