いままでに何作か、故郷を舞台にして書いてきました。
わたしは雪国の片田舎の生まれで、冬ともなれば一日に三、四回雪かきをしなければならないこともざらです。
新人賞をいただいた作品はまさに「雪国の閉塞感」をテーマにした作品で、「ああ、生まれてはじめて雪国生まれが役に立った」と思ったことを覚えています。
また『避雷針の夏』という作品は同県の母の故郷をモデルにして書きました。
田舎者を誇張して戯画的に書いてある、という感想を多くいただきましたが、モデルの地で生まれ育った母には「そのまんまだ」とたいへん好評でありました、とここでこっそり書かせていただきます。
今回連載させていただく『AX(アックス)』も、同じく故郷の田舎が舞台です。
季節は不快指数の高い梅雨どきにし、土砂崩れによる孤立という閉塞的な状況をつくり、時代は昭和五十年代の学生運動の余波覚めやらぬ頃に設定し――と、わたし好みの要素をこれでもかと盛りこみました。
とはいえ今回のメインテーマは閉塞感ではなく、「父と娘の愛情」です。
閉ざされた状況下の息苦しさ、爆発にいずれ至る長い鬱屈を書きながらも、このメインテーマを背骨に一本貫いておきたいと思います。
最後までお付き合いいただければ、幸いです。
「別冊文藝春秋 電子版7号」より連載開始